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衆議院議事部議案課様所蔵資料へのクリーニング、綴じ直し、保存容器への収納事例

2010年10月27日

衆議院議事部議案課様が所蔵する議決原本資料群のクリーニング、綴じ直し、保存容器への収納をお引き受けする機会を得た。資料の散逸を防ぐとともに管理しやすい状態にするため、適切な処置方針を検討したのち実際の処置を行った。

 

資料の状態

対象は簿冊資料1,622冊。そのうち1,022冊が糸による四つ目綴じ、600冊がハードカバーで製本されている。寸法は、四つ目綴じの資料はB5、 ハードカバーの資料はB5とA4サイズが主である。資料の状態は全体的に良好だが、四つ目綴じされている資料の中には、本紙に綴じ込まれたパルプ紙の劣化 が進み、紙力低下による破損が見られる資料がある。また、塵埃がたまっているものや、綴じ糸が切れているもの、背が型崩れしているもの、本体の文書類が表 紙よりも大きく、前小口から大幅に出ているものがある。ハードカバーで製本されている資料については、表紙に多少の擦れがあるものの、全体的に健全な状態 である。その他、クリーニング対象外のもので、保存容器へ収納する資料が114冊ある。

 

 

保存修復手当て方針

対象資料を書庫から搬出し、別室の作業所内にてクリーニング処置を行う。クリーニングは、資料の外装(表紙、裏表紙、背、天地、前小口)の塵埃を対象とす る。綴じ糸が切れているものや、背が型崩れしているものについては、綴じ直しを行う。資料を配架していた書棚の清掃を行った上で保存容器を設置し、その中 に資料を再配架する。

作業工程

①資料の搬出とクリーニング

書棚から資料を順番に取り出し、箱に詰めて作業所内へ搬出した。周囲への塵埃飛散防止のため、先端にブラシやフィルターを装着したバキューム装置を 用いて、資料表面の埃や塵を吸引した。その後、消毒用エタノールを噴霧、もしくは繊維が非常に細かいクリーニングクロスにエタノールを染み込ませたもので 資料表面を拭き取り、滅菌処置をした。

 

<クリーニング前> <クリーニング後>

 

 

②綴じ直し

四つ目綴じされている資料の中で、綴じ糸が切れているものや、背が大きく型崩れしているものは、元糸を外して解体した後、綴じ直しを行った。処置に 使用した糸は、元糸に近い素材・太さ・色で、十分な強度を備えた麻糸を使用した。表紙が大きく破損し、綴じ直しが困難な資料については、和紙(楮)とデンプン糊を用いて修補した後に綴じ直した。

 

厚みのある資料の綴じ穴に、竹串が入っているものが数点確認された。本来四つ目綴じに見られる中綴じを行わない代わりに、資料の背が崩れるのを防ぐための補強として入れたと考えられる。これによって、糸が一箇所切れていても、その他の箇所の糸の張りと、資料を開くことに対する強度は保たれていた。そのため、切れている箇所が資料の地を括る糸のみで、かつ他の箇所に糸の緩みが見られない場合には、切れた糸を新しい糸で継ぐのみとし、解体は行わないことにした。また、解体後に内部から竹串が出てきた場合は、綴じ直した後に竹串を穴にさし込み、補強のために再利用した。

 

<綴じ直し前> <綴じ直し後>

 

書棚清掃

保存容器を設置する書棚は、消毒用エタノールを噴霧、もしくはクリーニングクロスにエタノールを染み込ませたもので拭き取って清掃し、その後乾燥させた。

 

 

④保存容器の設置と資料の搬入・再配架

清掃した棚の中に組み立て式棚はめ込み箱[注1]を 設置し、その中に資料を再配架した。保存容器のサイズは資料の大きさに合わせて2種類とし、前面には容器番号を記載したラベルを差し込むためのカードホル ダーを取り付けた。また、保存容器内に収納されている資料が分かるよう、ラベル番号と対応した収納リストを作成した。

 

 

[注1] 組み立て式棚はめ込み箱とは、棚の大きさに合わせてはめ込む保存容器で、前面の蓋が開閉し資料の取り出しを容易に行うことができる。保存容器は無酸・弱アルカリのアーカイバル・ボードにより製作。ISO16245 (Information and documentation ? Boxes, file covers and other enclosures, made from cellulosic materials, for storage of paper and parchment documents) に準拠している。使用している材料、組み合わせ (紙+接着剤など) はすべて、PAT試験 (ISO18916: Photographic Activity Test) をクリアしており、酸化物や酸性化物が発生しないことが確認されている。

 

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