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写真保存用包材の問題点―東京都写真美術館の事例―平成15年度 画像保存セミナーでの報告
2003年10月25日木部徹
社団法人日本写真学会主催の平成15年度「画像保存セミナー」が10月17日に東京工芸大学で開催された。今回の発表は、写真保存用包材の問題点(前・東京都写真美術館 荒井宏子氏)、埼玉県立文書館における戦後写真資料整理事業について(同文書館 荒井浩文氏)、インクジェット記録による写真画質に実現と画像保存性(セイコーエプソン 大西弘幸氏)–等。このうち、荒井宏子氏の報告を同セミナーの予稿集をもとに紹介する。
荒井氏は、東京都写真美術館において発見された写真包材(フォルダーや箱)に起因する写真乾板の劣化と、包材に関するISO等の試験制定の経緯を述べ、写真資料を所蔵する各機関で品質管理規定を作成するとともに、包材と作品の両方での定期検査が必要であると強調した。
東京都写真美術館が所蔵する小川一真撮影の写真乾板約300枚は1990年から1994年にかけて、一枚ずつ薄紙に包まれ、写真用台紙に挟まれ、10枚ずつ「写真保存専用の」段ボール箱に納められた。そして箱は5箱が紐で束ねられて横置きの状態で収蔵庫に納められた。
一般に段ボールは三層構造になっている。中間に波状の(段々の)板紙があり、この板紙を両側から平たい二枚の板紙でサンドイッチしている。中間の板紙と表面の二枚は中間の板紙の段々部で接着剤により貼りあわされているが、収蔵から8年ほど経過した今日、この接着剤が影響したと思われる縞模様が乾板の写真画像上に現れた。写真画像への影響度試験(Photographic Activity Test=PAT)を行った結果、この事例では写真乾板に直接接している包材と、外側の台紙が不合格品であり、この二つが複合されて写真乾板に影響を与えたことが判った。
PATという試験法がISO(International Organization for Standardization : 国際標準化機構)で規格化されたのは1989年である。事例はこの直後に採用された輸入包材で生じた問題で、この規格がメーカーと使用者の双方に周知されていない状況だった。そもそも、このISO規格はアメリカのIPI(Image Permanence Institute)が原案を作ったのだが、1990年代初頭では、PATを行える機関はIPIだけだった。その後、日本では写真美術館・保存科学研究室 において同試験ができるようになり、同研究室ではこの時点での輸入品を含む市販品の大半を網羅するPATを行い、結果が公表されている(注1)。
荒井氏は、当時の包材の記録がない、輸入材料への過信、定期検査のサイクルをより短くすべきだった–等、「いくつかの反省事項」をあげ、同じ問題は同館だけでなく、この時期の前後にPATを経ずに使用し今日にいたっている全ての写真保存施設で生じることが予想されるとしている。そして「今後の課題」として、この時期に採用した包材について早急に影響度を確かめることを勧める。
荒井氏によると、ISOおよび審議中のJISでは「保存中のプリントから種類の異なる代表的なサンプルをなるべく多く選び出し、2年または3年ごとに検査」し、「プリントまたは包材に劣化の兆候が認められた場合は、温湿度管理方法の改善または保護能力の低下した包材もしくは収納容器の更新のような是正処置をしなければならない」とある。
(注1)荒井宏子「写真印画の長期保存に対する現用包装材料の適否に関する試験報告」、東京都写真美術館紀要、No1, pp63-75 (1997)
「画像保存セミナー」は日本写真学会画像保存セミナー実行委員会により毎年度行われる。
文責:木部徹(資料保存器材)