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社団法人日本写真学会主催 平成21年度 画像保存セミナー参加報告2009年11月9日島田要
社団法人日本写真学会主催の画像保存セミナーが10月30日に東京都写真美術館ホールで開催された。今回は、画像技術と図書館の資料保存、デジタルファクシミリの制作、殺菌・静菌効果を有する酵素濾紙、写真原板の概念、写真記録に関するガイドライン策定の取組み–など、広範囲なテーマがならんだ。
プログラムの概要は以下のとおり。
■講演1
画像技術と図書館の資料保存 -Looking backward and forward-
資料保存研究者・元国立国会図書館副館長 安江明夫
■講演2
高品質な貴重書デジタルファクシミリの制作
慶應義塾大学 樫村雅章
■講演3
文化財保存へのアプローチ『気相中で殺菌・静菌効果を有する酵素濾紙』
日揮ユニバーサル(株) 磯前和郎
■講演4
写真原板とは何か
東京都写真美術館 金子隆一
■講演5
「我が国の写真フィルムの保存・活用に関する調査研究」について
(社)日本写真家協会 松本徳彦
■講演6
文化財等の写真記録に関するガイドライン策定の取組みについて
オリンパスイメージング(株) (文化財写真ガイドライン検討グループ) 吉田英明
■講演7
JEITA規格「デジタルカラー写真プリント画像保存性評価方法」について
セイコーエプソン(株) (JEITA) 加藤真一
このうち、安江明夫氏と磯前和郎氏の講演の概要は以下の通り。
「画像技術と図書館の資料保存 -Looking backward and forward- 」
資料保存研究者・元国立国会図書館副館長 安江明夫
はじめに資料保存の考え方と保存への取り組み方の歴史と発展を説明し、画像技術(アナログ・デジタル技術)の図書館・アーカイブの関わり合いの歴史を振り返った後に、資料保存の手段としての画像技術への期待と課題を述べる。
1966年のフィレンツェ水害以来、国際的に顕著な発展を示してきたコンサーベーション(保存措置/保存修復)とプリザベーション(保存管理)の概念は、近年、「資料の現在と将来のアクセスを保証する」という観点から、図書館やアーカイブ全体のより総合的な取り組みとして行うべきだと定義され、考え方の見直しが行われた。
紙媒体資料だけではなく、蔵書を構成するあらゆるメディア(音盤、カセット、ビデオ、マイクロフィルム、デジタルデータ)を対象に、修復や予防措置であるコンサーベーションという対策に加えて、代替、災害対策、教育・訓練、協力・共同事業等を実施する総合的・組織的・マネジメント的なプリザベーションという対策が必要である。
加えて、プリザベーションには「アクセス」という機能が含意されている点が重要であるとし、資料保存は、資料・情報へのアクセスを将来にわたり継続的に保証することが任務であり、ここでは長期保存の観点が不可欠である。
マイクロ写真の導入以来、画像技術は図書館等が成り立つうえでの不可欠な基盤となっている。そして現在ではデジタル技術が加わり、その重要性は一層高まっている。しかし、いずれも課題を抱え得ている。マイクロ写真技術を代替手段として選択した要点は、信頼性、長期保存性において優れていることだが、しかし一方で、TAC(トリアセテート)フィルムのビネガー・シンドロームが、一方、デジタル技術においては、いわゆるデジタル・ジレンマが指摘されている。いずれの技術も長期保存という観点では留意すべき課題がある。
しかし、残念ながら日本の図書館等では、館全体としてしっかりとした取り組みがなされていないのが大半だ。問題としては意識されることがあっても、その解決には未着手のケースが多い。その結果、マイクロフィルムの保存信頼性に対する疑問の拡大へと繋がっているのが現状である。管理しやすく、それ自身は安定性があるマイクロフィルムというメディアの理解と、実際に現場で適切な管理をするという考慮がなければ、長期保存する手段にはならない。
また1990年代以降、インターネット環境の整備とともに、デジタル技術が大きく発展してきた。世界中の図書館、アーカイブでは代替手段としてのデジタル化が実験、検証、実施されている。ウェブアクセスのインパクトは甚大であり、それへの取り組みが図書館等を変化、進化させつつある。
しかし一方でデジタルデータの長期保存技術は現時点では発展途上であり、長期保存の手段としてはいろいろな弱点が指摘されている。「デジタル化は利用の手段ではあるが、保存の手段ではない」とする考えもあり、資料のデジタル化に際しては、目的は何なのか?長期保存が必要だったとすればどう管理したらいいか?原資料をどう位置づけるか?—そのように自問することが重要である。デジタル化=保存対策では長期保存の手段ではあり得ない、またデジタル化そのものが可能かということだけでなくどのような手だてが必要か、それを自問することが重要である。
「資料・情報への継続的アクセスを保証すること」と定義される資料保存(プリザベーション)は、機能的、能動的、マネジメント的コンセプトである。今後の プリザベーションはアナログ資料とともにデジタルデータ(ボーンデジタルデータとリボーンデジタルデータ=資料デジタル化データ)を対象とするが、その双 方において画像技術、代替技術が一層、重要になる。
「文化財保存へのアプローチ:気相中で殺菌・静菌効果を有する酵素濾紙」
日揮ユニバーサル(株) 磯前和郎
酵素濾紙は、環境調和型技術として国内外のクリーンルームや対バイオテロ空調など業務用エアーフィルタ材として、すでに高い評価と実績を得ている。以下、この酵素技術のメカニズム・安全性・実環境下での殺菌・静菌効果などを、電子顕微鏡写真などを交えて紹介する。
エアーフィルタはホコリを除去する目的・微生物の浄化対策などで建物空調、病院、美術館、博物館、ホテルや食品工場、半導体工場など生活や製造の過程のあらゆる場所で使用されている。
フィルターの種類には大別して、ホコリを除去する目的のいわゆるプレフィルター、HEPAフィルターの前処理として使われる中性能フィルター、クリーンルームを成り立たせるためのHEPAフィルター、活性炭や化学吸着剤を使用したガス吸着フィルターなどがある。
菌糸をのばして増殖する細菌やカビなどの微生物、病原菌は、フィルター上で生存・繁殖し、そのためフィルターは本来のダスト(塵埃)をとるという目的には正しく使われているが、逆にカビ等を増殖をさせてしまうという欠点がわかってきた。人間環境ひいては文化財保存の番場においてもこのカビ毒というのは、ある意味、化学物質であるために、それによる変質を起こし微生物の二次汚染がおこるケースも出ている。
持続性のない薬剤を使ったフィルターではなく、微生物の二次汚染や飛散を解消できるような、フィルター自体に持続した殺菌性があり、剥離がおこらないもの、安全性なものというコンセプトをもとに酵素濾紙を16年前に開発、9年前に市場に展開され、クリーンルームの業務用分野では市場を確立してきた。
酵素フィルターの特徴は以下のとおりである。
- 永久的に持続する高度な殺菌力:様々な適用エリアでの高い実績が証明されている
- 溶菌酵素が半永久的に使用可能:繊維に化学結合しているため、消費されない殺菌力は半永久的
- 確実な安全性:物質の安全と剥離・飛散がない
酵素にはたくさんの種類があるが、菌の細胞壁、カビの擁する菌糸、ウィルスのエンベロープという膜を溶かす溶菌酵素というのが存在する。酵素フィルターの殺菌メカニズムはこの溶菌作用を活用したものである。
特徴ある溶菌酵素を8種類選び、共有結合で濾紙に固定化しものが酵素フィルターである。酵素を固定化しないと持続的な殺菌効果は維持できない。そのため、濾紙にする前のガラス繊維は水酸基をたくさん持たせ、無害なタンパク質を用いて、ミクロンオーダーで溶菌酵素を水酸基に共有結合させる。
安全性を考慮し、化学物質を用いずに固定化することで高度な安定性を持ち、環境因子に対する耐久性が強いという特徴がある。ガラス繊維のフィルターであるため微生物のフィルター上での生存・繁殖がさせないため、悪影響を抑えられる。
博物館展示ケース内の空気清浄機に適用した例を挙げる。この対策後には、展示ケース内の微生物、菌数が8割近く減少した。また博物館の展示監視員の健康安全にも対応し、クリーンなエアーになって室内に放出されるため、微生物・真菌対策として非常に効果があることがわかった。
文化財保存分野における酵素濾紙フィルターの適用として、ビル・建物空調でのそれが効果があろう。燻蒸処置を行っていない、あるいは空調対策が不十分な美術館・博物館は、微生物・真菌対策として酵素濾紙フィルターを導入することで大きな効果があるだろう。
また、局所的な対策としては、展示室や収蔵庫、展示ケース内、微生物汚染品の作業ルームでの酵素フィルターのHEPA搭載パーテーションや空気清浄機に導入すれば、吸気・吸引されクリーンなエアーになって放出されるため、微生物の飛散を防ぎ作業工程等で安全性を保てたり、空気調和が可能である。
またフィールドテスト段階ではあるが、ガラス繊維ではなく水酸基を持ったレーヨン繊維100%の濾紙フィルターを開発中である。文化財を保管する、あるいは移動するときに、微生物を飛散させず、寄せ付けない包装材料を検討しており、今後の文化財の保存に貢献できるのではないか。