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PAT(写真活性度試験=Photographic Activity Test)の概要と有用性 -アーカイバル容器の確かな信頼性のために-2011年04月6日小林尚美 , 阿部祐貴
はじめに
図書館やアーカイブズ、博物館や美術館で、資料を保護するために採用されている保存容器(アーカイバル容器)は、外部からの物理的な衝撃、酸性化・酸化ガス、埃など資料にとって有害な物質をできるだけ遮るとともに、容器自体が資料に悪い影響を与えない材料で作られていることが必須条件になる。
当社では、製品のアーカイバルな特性を示す重要な指針として、容器に使う材料に対し、ISO 18916 Photographic Activity Test (写真活性度試験=PAT)を行ってきた。これまでに40種類以上の個々の使用材料、およびその組み合わせで試験をし、これにパスした材料を積極的に使用している。
PATとは
写真用包材(紙やプラスチック等)やそれに使用されている各種材料(粘・接着剤、インキ、塗料、ラベル、テープ等)が、長期に写真画像に接触することによる化学的影響を判定するための試験方法であり、この試験に合格すれば写真包材として適切ということになる。1980年代にアメリカのIPI(Image Permanence Institute) によって開発され、ANSI(米国家規格)、DIN(ドイツ規格)等に採用された後に、国際標準化機構(ISO)によりISO 18916(2007年)として規格化されている。
なぜPATか
当社が使用している紙製の材料(主にボード)はパーマネントペーパーの規格として知られているISO9706 Information and documentation-Paper for documents-Requirements for permanenceに準拠している。この規格は、書籍等の本文紙が図書館や文書館での通常の使用・保管条件のもとで大きな劣化を起こさずに数百年の寿命をもつために、最低限満たすべき基準である。しかし、この規格はその紙自体の劣化の指標を表すものであって、その紙によって作られた包材が資料に対して化学的な悪い影響を及ぼすかどうかや、使用の可否を表すものではない。
その点、PATは前記したように、包材が及ぼす化学的影響を測り、写真包材として適切かどうかをPass(合格)、Fail(不合格)という形で明確にすることができる試験である。また、PATは写真用包材のための試験ではあるが、写真資料は紙資料に比べ化学的に敏感で、より厳しい保存条件が求められることから、PATに合格した包材はその他の資料に対しても安全性が高いとみなされる。
試験概要
試験では、汚染を検出するための2種類のディテクター(画像退行ディテクターと汚染ディテクター)を包材と共に強制劣化させ、包材が写真資料に及ぼす影響をシミュレートし、画像への影響、汚染、斑紋の3項目について測定する。PATに合格するには、この3項目全てにおいて基準を満たしていなければならない。
1.使用材料
○画像退行ディテクター
未感光の銀粒子をゼラチンに分散させ、ポリエステルフィルムに塗布したもの(コロイド銀シート)。
→包材が写真画像の濃度に与える影響をシミュレートする。
○汚染(ステイン)ディテクター
現像を経ずに定着・水洗・乾燥した黒白バライタ印画紙。
→汚染をシミュレートする。
○試験片
試験対象となる包材
○基準濾紙
コントロール。試験片と同じ条件で2種類のディテクターと接した状態で強制劣化させる不活性材料。
→合否の基準となる。
2.試験方法
全ての材料は同寸法にし、図1のように試験片と各ディテクターとの積層をそれぞれ作る。また、試験片の代わりに基準濾紙を用いた積層を同様に作る。つまり、下記A~Dのように積層を作り、温度70℃(±1℃)、相対湿度86%(±3%)で15日間、強制劣化させて、その結果を比較する。
A 試験片+画像退行ディテクター(1つの積層に2組。以下同)
B 基準濾紙+画像退行ディテクター
C 試験片+汚染ディテクター
D 基準濾紙+汚染ディテクター
3.測定
強制劣化試験の前後に、各ディテクター4箇所ずつ計8箇所(4箇所×2枚)の濃度変化を測定する。
(画像退行ディテクターは透過濃度、汚染ディテクターは反射濃度を、濃度計で測定)
4.計算と必要条件
4-1.画像退行試験
○試験片の積層(A)に入れた画像退行ディテクター上で測定した8箇所について下記により濃度変化を求め、さらにその平均を出す。→①
強制劣化前の透過濃度-強制劣化後の透過濃度
○基準濾紙の積層(B)に入れた画像退行ディテクターについても、同様に濃度変化の平均を出す。→②
上記の①と②を下記計算式に当てはめ、試験片側の濃度変化が基準濾紙側の濃度変化の±20%を超える割合であってはならない。→③
4-2.汚染試験
○試験片の積層(C)に入れた汚染ディテクター上で測定した8箇所について下記により濃度変化を求め、さらにその平均を出す。→④
強制劣化後の反射濃度-強制劣化前の反射濃度
○基準濾紙の積層(D)に入れた汚染ディテクターについても、同様に濃度変化の平均を出す。→⑤
上記④が⑤に0.08を加えた数値以上になってはならない。
4-3.斑紋
○試験片の積層(A)に入れた画像退行ディテクター上の斑紋を測定する。
ライトテーブル上もしくは均一な光源を用いて斑紋から腕の長さ分(50cm)離し、視覚による評価を行う。
目視により、容易に認められるような汚染があってはならない。合否の判断は試験官に委ねられる。
斑紋は様々な形で現れる。以下は一例
※ 明暗のむら
※ ランダムな大小の暗い点
※ 挟んだ濾紙の繊維の変色
※ ゼラチン上のピンホール
※ 試験片の特徴に沿った模様(例えばアルバムの接着剤のライン)
PATに合格するためには、上記4-1、4-2、4-3の全てにおいてpass(合格)しなければならない。
→☆
参考文献及び関連リンク
・ISO18916″Imaging materials- Processed imaging materials-Photographic activity test for enclosure materials”
・荒井宏子;(1998)写真印画の長期保存に対する現用包装材料の適否に関する試験報告、東京都写真美術館紀要No.1、P63-68
・IPI (Image Permanence Institute)
弊社試験材料一例
・アーカイバルボード+のり | ・アーカイバルボード+不活性不織布テープ |
・アーカイバルボード+新きりなみ用フィルム | ・3F |
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