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資料保存容器の新しい国際規格 ISO16245(2009) と当社の取り組み

2011年05月31日田中祐 , 川尻香菜子

はじめに

図書館やアーカイブスで紙媒体の資料を長期かつ安寧に保存する容器の材料は、材料そのものが資料の劣化の原因になってはならない。このため従来から、使用材料の品質の国際的な指針となってきたのが、ISO 9706「本文紙を対象とした永く残る紙」、ISO 18916「写真活性度試験」などである。しかし、前者は表題のように、書籍の本文用紙のための品質を、後者は、敏感な写真資料に接触する材料の品質を、それぞれ規格化したものであり、保存容器の構造や強度を示した規格ではなかった。

2009年末にISOによって策定された、紙資料を対象とした保存箱及びファイルフォルダーのためのISO 16245「情報及びドキュメンテーション-紙及び羊皮紙文書の保管のためのセルロース素材の箱,ファイルフォルダー及びその他の容器」は、従来の材料の規格ではなく、構造体としての容器(箱やファイルフォルダー等)そのものの規格として登場した。当社のようなアーカイバル容器の専門企業にとっては待ちに待った規格であるが、アーカイバル容器を導入している図書館やアーカイブズ、博物館・美術館にとっても、今後の容器採用の際の指針になると思われる。以下にこの規格の概説と当社の取組みを紹介する。

概要

ISO(国際標準化機構)により2009年11月24日に「情報及びドキュメンテーション-紙及び羊皮紙文書の保管のためのセルロース素材の箱,ファイル フォルダー及びその他の容器」(16245 2009 Information and documentation?Boxes, file covers and other enclosures, made from cellulosic materials, for storage of paper and parchment documents)が発行された。これは紙資料(羊皮紙を含む)を長期保存するための保存箱、ポートフォリオ、封筒、筒箱、ファイルフォルダーの仕様の規格化である。なお本規格は写真資料は対象外である。

ISO原本表紙 保存箱(当社製) ファイルフォルダー(当社製)

 

原文目次

Introduction(序文)
1. Scope(目的)
2. Normative references (参照規格)
3. Terms, definitions and symbols(用語集)
4. Requirements for boxes(保存箱に求められる仕様)
5. Requirements for file covers(ファイルフォルダーに求められる仕様)
6. Test report(試験報告書)

 

保存箱に求められる仕様

紙・ボード
保存箱に使用する紙とボードの基準は使用箇所によってTypeA とTypeBの2種類に分かれている。

TypeAは、ISO9706:1994[注1]のアルカリ残留物、酸化への耐性とpHの項目に準拠し、中性またはアルカリサイズした紙・ボード類を用いる。TypeAの紙とボードで作成した保存箱は、ファイルフォルダーを用いずに利用することができる。積層ボードや段ボール構造の場合は全ての層がこの基準を満たしている必要があり、これを満たさない場合はTypeBに分類される。

TypeBもISO9706:1994のアルカリ残留物とpHに準拠し、中性もしくは、アルカリサイズ剤を使用することを基準とするが、酸化への耐性について制限はない。積層ボードの場合は層ごとにこの規格を準拠する必要がある。TypeBの紙とボードで作成した保存箱は本規格のファイルフォルダーとあわせて使用することを前提としている。

布貼り、紙貼り加工と色
保存箱内を紙や布で内貼りする場合には、布はアクリル樹脂などの移行性がないものを、紙は本規格のファイルフォルダーに求められる仕様に準拠し、耐折強度が高く、光に強いものを用いる。

紙・ボード類の色は蛍光材の使用をさけ、顔料などを用いる場合はファイルフォルダーの色の移行に記載された試験に準拠したものを使用する。

接着剤と留め具
接着剤はでんぷんのりやポリマー樹脂、EVAなどを使用し、可塑剤[注2]を必要とする接着剤は使用しない。接着剤に炭酸カルシウムなどアルカリ性を持つ素材を入れることで中和効果を与えることも可能である。

留め具は腐食する危険性のある金属製リベットやステープルの使用は避ける。例外として使用する場合は腐食しにくいステンレスを使用する。

設計とデザイン
保存箱の設計は、収納した資料へのアクセス性も重要である。資料にダメージを与える大きな要因として利用時の物理的な破損が挙げられる。棚からの取出も容易な形状であることでそのリスクを抑えることができる。また接着用のリベットやステープルによるダメージは保存箱の構造で回避することが可能である。

紙・ボードの吸水性
紙・ボードの吸水性についてはISO535にあるcobb test(コッブ法)を用いcobb60値を求める。ISO535指定の条件下で紙やボードの1平方メートルのサンプルに水を面で接触させ、60秒で吸収させる。サンプル片が吸収した水の高さに相当するコッブ値が算出される。25より低い値であることが求められる。紙・ボードの水分が染み込みにくいことで、外から保存箱内部の水の影響を食い止めることが可能である。

強度
保存箱の物理的耐久性の基準は20kPa(キロパスカル)の圧力に耐えることである。仮に320mm×245mmに20kPaの加重をするとおよそ160kgに相当する。この試験は物流過程において下積みになった際の圧縮強度を調べる試験方法を用いる。試験方法は組み立てた状態で同形の保存箱5箱をそれぞれが 23℃±2℃、湿度は50%±5%の環境下で保存箱上部からの圧力に耐えることができなければならない。

またヒンジ部分のある保存箱は300回の折り曲げ動作に耐えなければならない。使用する保存箱の置き方などに最適な向きがある場合は容器の外に明記することも重要である。

 

ファイルフォルダーに求められる仕様

紙・ボード
ファイルフォルダーに使用する紙・ボードはISO 9706:1994[注1]のpHの値、アルカリ残留物、酸の耐性の項目に準拠し中性またはアルカリサイズした紙・ボード類を用いる。


ファイルフォルダーに使用するボードは蛍光材を含まず、顔料などで彩色する場合は色の移行についての試験を行い、滲まないものを使用する。紙やボードの色はISO5-3、5-4に記載される光学認識で視認性のよいものにし、デジタル化やマイクロ化、スキャニングに支障をきたさないよう光学技術における分光条件、反射濃度の指定がある。

接着剤と留め具
接着剤の使用は、基本的に使用を避ける。使用する場合は可塑剤[注2]の必要のないものとし、製造者に可塑剤を使用していないことを確認する必要がある。可塑剤を必要としない接着剤としてはでんぷんのりやEVAが挙げられる。接着剤に炭酸カルシウムなどアルカリ性を持つ素材を入れることで中和効果を与えることも可能である。留め具は腐食する危険性のある金属製リベットやステープルの使用は避ける、例外として使用する場合は腐食しにくいステンレスを使用する。

強度と寸法
紙の強度は、ISO5626:1993[注3]に準拠する。ISO5626:1993に記載のA-1項で指定された計測器の判定の場合少なくとも1.9の耐折強度が必要、A-2、A-3、A-4項で指定された計測器の場合は少なくとも1.7の耐折強度が必要である。

ファイルフォルダーの寸法は資料より大きく、保存箱と併用できること。ファイルの寸法は通常、調達時にユーザーより提供される。その際に許容範囲について説明する。

色の移行
ファイルフォルダーは資料に直接接触する為、素材の色移りの試験方法が記載されている(保存箱の仕様には記載はない)。素材のサンプル片80mm×80mmを平らなプレート(アルミニウムまたはガラス)の上に乗せ、その上に40mm×40mmの濾紙を載せる。20℃から25℃の脱イオン水をしみこませ、12kPa(2kgの重り) の圧力を20分間かけ乾燥させた後、日照条件下で色移りの確認を行う。また紫外線灯下でも確認を行い素材からの色の移行を確認しなければならない。

 

当社の取り組み

当社で保存容器の材料として主に使用しているアーカイバルボード(TTトレーディング株式会社製)はISO 9706 1994[注1]に準拠し、蛍光剤など一切含んでいない、弱アルカリのコルゲートボードである。芯材のフルートと各ボードの接着もでんぷん系を用いており可塑剤を必要とした接着剤は含まれない。

主に劣化の激しい書籍やアルカリに弱い資料に対しては当社製3F仕様とする。3Fは無酸、無アルカリであることに加え、サイズ剤も使用しておらず、ファイルフォルダーの基準に準拠する。保存箱を組み立てるうえで必要な接着剤は、PP(ポリプロピレン樹脂)を熱で柔軟化させるホットメルトを使用することでこの規格に準拠している。留め具は腐食する恐れのある金属部品を使用せずPPやABS樹脂を用いている。

また当社では、新しい素材を起用する際、写真用包材の試験であるPAT (Photographic Activity Test) ISO:18916のパスに加え、接触する可能性のある既存素材との接触でもパスすることを指針の一つとしている。

ボード類(アーカイバルボード、3F) 留め具(ABS樹脂製) 接着剤(ポリプロピレン樹脂製)

 

[1] ISO 9706 1994
本規格では、紙の規格であるISO 9706: 1994Paper for documents?Requirements for permanence(永く残る紙)の一部を元にしている。それは以下のような基準である。

アルカリ残留物 紙の乾燥重量比で2%の炭酸カルシウム相当量を含んでいること
酸化への耐性 カッパー価5.0以下[注4]
pH(水素イオン指数) 冷水抽出法を用いて計測値がpHの値が7.5から10であること

 

[2]可塑剤
可塑剤とは、一般的に粘土に水を加えると柔らかくすることができるが、この粘土を樹脂に、水の当てはまる添加剤を可塑剤という。樹脂は可塑剤を添加することで常温でも柔軟さを保つことができるが、主に塩ビを柔軟にするフタル酸エステルなどの可塑剤は可塑剤の移行という問題を含んでいる。対象素材に可塑剤が移行することで接着剤がいつまでも固化しなかったり、移行した可塑剤が接した素材を変色させたりすることもある。そのため長期保存を前提とした接着剤には可塑剤の必要がない接着剤を使用することが求められる。

[3] ISO5626:1993
ISO5626:1993  Paper- Determination of folding endurance 紙及び板紙―耐折強さ試験方法 (JIS P 8114:2003) 0,25 mmより厚い紙を耐折度試験器に固定し、試料を破断するまで折り続ける試験である。

[4]カッパー価
有機不純物(主にリグニン)の残留物からパルプの蒸解度を示す方法の一つ。絶乾パルプ1gのもつリグニンが消費する、N/10過マンガン酸カリウム溶液のml数で示す。値が小さいほどセルロース分が多い。製紙業者はパルプ内のリグニン残留量をこの方法で量り一定の品質を維持するために使用する。

 

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