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2023年6月13日(火)中性紙製紙管による大型作品のローリング(巻き取り)保管について
弊社では、中性紙製紙管を、大判の古地図、織物や染織品資料、大型ポスターなどを巻き取り保管するための太巻き用資材として利用しています。
非常に大きなシート状の資料は、マップケースや大型の保存箱に平らに広げて保管するのが理想的なのですが、専用の収納具やフォルダを使用してさらに保護する必要があり、特にマウントされていない場合や補強がない場合には、取り扱いによる物理的な破損を受けることがあります。こうした資料は、平らな状態で保存するのには大きすぎるため、紙管に巻き取り、箱へ収納することも一つの解決策です。また、この方法によって保管庫のスペースも有効に利用することができます。
今回製作した紙管付きの保存容器には、サイズが約2,100×2,800ミリの鳥の子紙に描かれたペン画作品が収納されます。巨大な作品を、直径の大きくて長い紙管で緩やかに巻き取ることで、作品の皺や折れを最小限に抑えて保存することができます。国内ではこのサイズに対応する紙管が手に入らなかったため、ドイツのKLUG Conservation社から紙管(Tubes)を取り寄せました。紙管は2本を歪みができないよう平行に連結加工し、保存箱には紙管を乗せる軸受けを取り付けています。さらに、上から軸受けを被せ、紙管を360度囲むことによって、箱の中で固定できるよう工夫されています。収納後は綿布団や薄葉紙をあて、全体を包み込むようにして作品を保管します。
▶︎ドイツKLUG Conservation社の紙管Tubesについて
ドイツのKLUG Conservation社では、文化財保護用資材として使用される紙管Tubesについて、品質試験であるPATの結果を公開しています。製品ページから品質表をダウンロードすることができます。また、同社では保存箱や紙管の主素材である、紙・ボードのPAT[※1]合格証明書やODDY Test[※2]結果、その他の品質表も公開しており、ユーザーにとっては安心できる情報となっています。
・KLUG Conservation – Tubes made from conservation board -
[※1] PAT Test(Photographic Activity Test)PATテストは、写真画像に損傷を与える可能性のある材料(紙・ボード、布、接着剤、フィルム、保存資材など)を評価するための試験です。一部の材料は、写真画像と化学反応を起こし、モノクロ・カラー写真の劣化や変色を引き起こす可能性があります。PATテストでは、潜在的にネガティブな反応を示す有害な物資の影響を検査します。もし影響が確認された場合、その材料は不合格となり、写真包材や文化財保護用包材として使用できません。PATは、写真保存材料の品質をテストし検証するために開発された公式なラボ試験です。この試験は米国のImage Permanence Instituteによって設計されました。PATに合格した接着剤などの写真保存製品は、安全であり、時間の経過とともに写真や他の素材への損傷を引き起こすことはありません。したがって、PAT合格製品は信頼できると言えます。
・Rochester Institute of Technology/IPI – PAT testing –
・PAT(写真活性度試験=Photographic Activity Test)の概要と有用性 -アーカイバル容器の確かな信頼性のために-
[※2] ODDY Test ODDYテスト(オディテスト)は、1973年に大英博物館の保存科学者アンドリュー・オディによって開発された加速腐食試験です。この試験は、素材(展示、保管に使用される紙、ボード、木、布、発泡体、プラスチック、接着剤など)から発生する可能性のあるオフガス(放出ガス)を予測し、収蔵品に使用しても安全かどうかを判断するためのテストです。ODDYテストでは、収蔵品と密接に接触する素材が長期間にわたって有害な揮発性物質を放出する程度を半定量的に測定し、その素材の適合性を予測することができます。さらに、素材の安定性はImage Permanence Instituteの「A-Dストリップ」を使用してさらに評価することもできます。このストリップは、揮発性有機酸の短期間の放出を測定するために使用されます。
米国文化財保存学会(AIC)が提供する情報サイトで、さまざまな素材のODDYテストによる品質試験結果がまとめられています。ODDYテストでは、対象素材を高温恒湿環境で28日間置き、素材から発生する物質やガスが3種類の金属クーポン(銀、銅、鉛)にどのような腐食や変質を引き起こすかを調べます。このテストによって、対象素材が安心して使用できるかどうかが評価されます。結果はP、T、Uの3つの基準で判定されています。
P = Pass, Permanent: 長期利用可能(金属クーポンに腐食が見られない)
T = Temporary: 一時的な利用のみ(金属クーポンにわずかな変色や腐食が見られ、変色の膜が形成される)
U = Fail, Unsuitable: 使用不可(金属クーポンに明確な腐食が見られる)
・AIC Conservation Materials & Materials Testing – Oddy Test Protocols –
▶︎弊社では、強度のある箱や紙製保存箱を作成する際に、合成接着剤や接着テープ、樹脂系部品、紐などの素材を使用しています。保存箱や保存資材は、アーカイバルボードや厚紙(特種東海製紙社製/TTトレーディング社販売品)を主素材に、接着剤やテープなど、他の素材と組み合わせて作られています。これらの箱や資材は、単体、複合材においてODDY testやA-Dストリップテスト結果が良好でPAT合格品です。また、保存箱内の腐食性ガスの影響を測定するために、エコチェッカII(蛍光X線分析専用腐食性ガス測定キット)を使用した品質確認試験を行っています。このキットには、電機・電子機器に一般的に用いられる金属である、銅(Cu)、銀(Ag)、鉄ニッケル(FeNi)、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)の金属片がセットされており、一定期間暴露した後に腐食性物質のスクリーニングや金属の変色を観察することで、腐食性物質の有無と種類、ごく低濃度の数ppbの腐食性ガスの影響を定量化し、大気環境の監視、腐食性物質や腐食性ガスの改善を正確に行うことができます。保存箱の内部、収蔵庫、保管倉庫、オフィスなどで長期間保管されている製品において、梱包部材による腐食性ガスの影響や保存箱の内部をテストし、金属クーポンの腐食によって腐食性物質やガスの有無とおおよその腐食度合いを診断し、放散ガスの影響がないことを確認しています。
ユーロフィン社製 蛍光X線分析専用腐食性ガス測定キット - エコチェッカⅡ –
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『今日の工房』
・2014年05月16日(金)染織品を中性紙管に巻いたまま収納するための箱
・2010年3月11日(木)軸受け付き保存容器の制作
・2020年10月23日(金)絨毯を保管する大型の保存箱を製作しました。