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2019年7月18日(木)汚れた紙資料の水性処置では、洗浄の前にまず「濡らす」ことがなぜ重要なのか?

紙資料の修理工程のひとつに、紙の汚れを除去するための洗浄処置があります。洗浄は、弱アルカリ性に調整した洗浄液に資料を浸したり、スプレーで噴霧して濡らしたりして、紙に付着している汚れや、経年により内部で生成された着色汚れ(発色団 chromophore)を除去し、可溶性の酸を洗い出すために行う処置です。見た目の仕上がりの良さだけでなく、紙の保存性を向上させる役割があることから、水性処置の第一段階として不可欠な工程を担っています。洗浄後は、やぶれの補修や、水性脱酸性化処置、抗酸化処置など、資料の劣化要因によってそれぞれの工程を選択しますが、特に酸化・酸性化が進行した紙への洗浄+水性脱酸性化処置は、紙の劣化に関する根本的な問題への対処方法です。そしてこれらの処置は、紙表面だけでなく繊維の奥深くまで水溶液が行き渡ることで、より良い効果が得られます。
 

 

紙の内部に水を行き渡らせるには、紙を均一に濡らせば良いのですが、文字情報が載っている紙資料の場合、サイズ剤(にじみ止め)が効いていて水分が浸透しにくいため水で濡らすのは意外と難しいことです。まずは、溶液が隅々まで行き渡るように「濡らし」という事前の準備を行います。
 

 

資料の基材(紙)とイメージ材料(インクなどの色材)が、水にもアルコールにも耐えられることをスポット・テストで確認したら、水とアルコール(エタノール、イソプロピルアルコールなど)の混合溶液を使って紙を濡らします。アルコールを加えて水の表面張力を下げることで、紙を素早く濡らし繊維の奥深くまで水分を運ぶことができます。紙が充分に濡れ色になったら紙を引き上げ、洗浄液に浸します。
 

 

水は表面張力が高い(※1)液体なので、時間をかけて無理に湿らせようとすると、資料に物理的な負担をかけることにもなります。水が紙に浸透するとき繊維を膨潤させる作用が働くため、繊維の構造的な変化と、紙に載っているイメージ材料の亀裂など、影響を及ぼす可能性があります。こうした変化を伴うからこそ素早く濡らすということも重要です。
 

 

※1 水の表面張力は72.75mN/m。対してエタノールは22.55mN/mで、ちなみに水銀は476.00mN/m。紙の修理に使われる溶液の中でも水の表面張力は高い方。

 

関連情報

 

参考文献
 
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