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2018年1月31日(水)【文献紹介】 水没した電子記録媒体の復旧はどこまで可能か? 最良の乾燥法は? 保管の3-2-1 ルールとは?
水漏れや洪水や火災時の消火により、水を被ってしまった記録物の救助の要点は記録媒体内の中身(データ)がどこまで復旧できるかである。しかし、本や文書などの紙媒体ならば、現在ではある程度の復旧の予測は可能だし、その方法も決まっているが、フロッピーディスクや磁気テープ、CDなどの光学ディスク、USBカード等々の電子的な記録媒体については未だ充分な知見がない。
本稿 “The Soaking Resistance of Electronic Storage Media”(Restaurator, Vol.38, No.1, 2016)は、こうした電子媒体を、清浄な水道水、腐蝕物を含む汚水を真似た水道水(塩化ナトリウム、塩酸を混入)、海水を真似た水に6つの異なる期間(1日から28日)浸し、データの復旧がどこまで可能か、また必須の復旧法である乾燥はどの方法が有効かを研究したものである。
それによると清浄な水道水を被ったものならば、大半の媒体が復旧できたが、一部のCDやVHSテープでは問題が生じた。だが、汚れた水道水や擬似海水では電子媒体の復旧は更に困難になる。光学ディスクのデータのダメージの程度は、媒体の元々の製品品質にも大きく依存することも分かった。
乾燥法としては、一度清浄な水で洗浄後に、風乾法(風を当てながらの自然乾燥)で乾かすのが最良である。風乾後もそのまま2日ほど放置し、完全に乾いてからデータのダメージを確認する。冷凍乾燥法および真空冷凍乾燥法はCDやDVDも破壊してしまうので絶対に避ける。
乾燥は水没後48時間以内に着手するのが原則だが、それができない場合には、清浄な冷水(5 °C)に浸しておいた方が劣化の進行を顕著に防げる。媒体が泥など汚れている場合は、そのまま乾かすと汚れが強固に付着してしまう。これを物理的に除去すると媒体を傷める。冷水に浸しておくことで汚れの固着も防げる。
電子媒体の保管は3-2-1ルールに従う。すなわち、3つの複製物を作り、このうち2つは異なる種類の媒体に移す。残りの1つはオフサイト(前記の2つが保管されている場所と離れた別の場所)に保管する。