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2015年05月11日(月)内外ニュース&レポート編:正倉院は虫・カビや、桐箱容器からの有機酸対策をどのようにしているか 

文化財保存修復学会誌』の最新号(Vol.58, 2015)は成瀬正和「正倉院の保存環境をめぐって」を掲載している(p.41-46)。昨年1月に開催された公開シンポジウム「文化財を考える–奈良時代の美術工芸品を継承する」での著者の講演の記録。「文化財の保存環境に関わる因子には、温湿度、空気(有害物質濃度)、虫害。黴害、獣害、光、振動に加え、火災・地震等の天災、盗難等の人災などがある。ここでは、空気環境に関することを中心に、正倉院の保存環境にまつわる話題を提供したい。」(p.41 )。構成は次の通り。

 

1. はじめに

2. 正倉院の保存環境

3. 新宝庫建設の頃

4.  現在の保存科学専門職員による保存環境調査

5.  おわりに

 

このうち「4.  現在の保存科学専門職員による保存環境調査」では、空気環境調査、害虫・カビ調査と対策、点検と清掃、桐製の容器からの有機酸対策、動物被害対策について簡潔に紹介している。

 

空気環境調査

イオンクロマトグラフ装置を使い、アルカリろ過紙に捕集、イオウ酸化物と窒素酸化物を測定。金属板腐食試料(神戸大学により調整された三種類の板)を書庫内に配置し約二ヶ月に一度、反射率を測定し評価している。

 

害虫・カビ調査と対策

平成11年に昆虫トラップでヒメマルカツオブシムシ、ヒメカツオブシムシが捕獲された。これを踏まえて庫内の隠れた場所に作用させるためにシフェノトリン炭酸ガス製剤燻蒸作業を行うこともある。ヒメマルカツオブシムシの被害が疑われるフェルト類などの宝物についてはガスバリア内に密閉し脱酸素などによる個別の処置を行っている。温湿度は相対湿度60%、温度5〜28%を目指しているがカビの発生は免れないので、毎年発生が見られる宝物を記録し、エタノールによる拭き取りや防カビ剤を添えての密封処置などを行っている。

 

点検と清掃

点検は毎年10月・11月の開封期間中に保存課職員全員により宝物一点ずつ害虫・カビの有無を確認し問題があれば前述の処置を行い、職員全員が宝物の健康状態の情報を共有している。

 

桐製の容器からの有機酸対策

昭和40年代頃までの桐製容器には有機酸の発生はほとんど認められないが、最近製作したものについては有機酸濃度が高いものが少なくない。マルチガス吸着シートを容器に内装して濃度の低減する処置を試みている。

 

動物被害

1270年経った正倉ではクマバチが営巣し素木に孔が600余りあるが2年に一つの割合になり特に対策を講じる必要のない許容範囲と判断した。平成20年にアライグマによる傷痕が認められたが、捕獲檻設置や敷地を囲む柵の足周りを塞ぐなどの対策を講じている。

 

「文化財は与えられた条件下で、そばにいる人間が責任をもって最大限ケアを行うというのが、古今不変の保存上の基本ではないかと考えている」(p.46)

 

 

 

 

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