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2015年03月30日(月) 内外ニュース&レポート編:視覚障害者用の本(1840年刊)を修理する
凹凸のエンボス加工が施された視覚障害者向けの本(braille-embossed book)の修理は、平滑な紙面に印刷された普通の本とは異なる修理法が必要になる。その本が古く貴重な資料の場合の修理のポイントは、利用や経時によって劣化したエンボスを、再び人がなぞって読めるようにする「安定化と強化」処置だ。その事例がIADA(Internationale Arbeitsgemeinschaft der Archiv-, Bibliotheks- und Graphik-Restauratoren)の機関紙 Journal of PaperConservation (2014, 15−4)にHAND-READING:The Conservation of Braille-Embossed Books として掲載されている。
処置対象は1840年に発行された視覚障害を持つ学生向けの数学の教本 Elements d’arithmetique。いわゆる「点」字ではなく、エンボス形状は普通の活字の凸型である。(ルイ・ブライユがアルファベット点字を開発したのは1842年、これが普及したのは1850年代から)。「安定化と強化」のために次の材料が試された。デンプン糊と楮和紙、ポリメチルヒドロキシセルロース(Tylose® MH 300 P)、エチルアクリレート+メチルメタアクリレートのコポリマー(Plextol B500©)、アクリル樹脂(Paraloid B72©)。これらを塗布含浸させたサンプル紙(点状のエンボス)を、人の指先の「なぞる」のを模した装置にかけて、その後に耐摩耗性を測った。この結果、Plextolは好結果だったが、水とエタノールに溶解させたTyloseはさらに良好な耐久性を示した。しかしその他の材料はドット状のエンボスの先や形状に影響が出た。Tyloseはまた可逆性にも優れることも解った。