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今日の工房
週替わりの工房風景をご覧ください。毎日こんな仕事をしています。
2019年11月1日(金)松竹大谷図書館様が所蔵する映画スクラップ帳のデジタル化に伴う解体・簡易補修を行いました。
公益財団法人松竹大谷図書館は、1958年に開館した演劇・映画専門の私立図書館です。歌舞伎や演劇・映画に関する資料約48万点を無料で一般公開しており、所蔵する資料の保存・活用、施設の保全・運営のための資金を募るクラウドファンディングプロジェクトを2012年より毎年継続して行っています。
2017年のクラウドファンディング「第6弾 歌舞伎や映画、銀幕が伝えた記憶を宝箱で守る-映画スクラップ帳の保存プロジェクト-」では、弊社がオーダーメイドで制作したアーカイバル容器を導入しています。
映画製作当時の記事や写真が貼り込まれた映画スクラップ帳は、作られた年代によって劣化状態に差があり、特に戦前から昭和27年までに製作された映画のスクラップ帳は、紙質が悪く、経年劣化によって表紙から内部まで傷みが進んでおり、保存が大変難しい状況でした。そこで、今回、今後の利用でさらに破損が進む恐れがあるスクラップ帳の中から、松竹京都製作作品を対象に、文化庁が進めている「アーカイブ中核拠点形成モデル事業(撮影所における映画関連の非フィルム資料)」に申請、これが採択され資料の保護と活用のためのデジタル化を行うことになりました。本事業で弊社はデジタル撮影する前のスクラップ帳の解体・復元、簡易補修といった処置のご依頼を受けました。
お預かりした映画スクラップ帳は、新聞の切り抜き記事や写真のほか、大型ポスターなども貼りこまれ、重なったまま貼られている箇所は情報が見えない等々–、そのまま撮影するには困難な状態でした。そこで、必要な見開き具合を確保するための解体処置と、重ね貼りの箇所は一度はがし位置をずらして再度貼り込み、閲覧可能な状態にする処置を行いました。また、撮影者が取扱いに支障がなく安全な撮影ができるよう、破損しやすい箇所を和紙で補強したり、利用による劣化防止のため簡易補修も行いました。
弊社でお預かりしている映画スクラップ帳の処置の様子を松竹大谷図書館武藤様、井川様が見学され「松竹京都映画スクラップの補修見学@資料保存器材工房」として、同館のクラウドファンディング新着情報でご報告しています。処置を終えた映画スクラップ帳は株式会社インフォマージュでデジタル化撮影を行い、さらに弊社で元のスクラップ帳の形態へ綴じなおす復元作業を行います。作製したデジタルデータは今後、通常の館内での閲覧や、Web公開などの活用を検討されているそうです。
【関連リンク】
組み立て式棚はめ込み箱
2019年10月25日(金)会社案内のパンフレットを作製しました
このほど新たに会社案内のパンフレットを作製いたしました。これまでホームページにのみ掲載していた、当社事業のご紹介を目的とした内容で、製品カタログやリーフレットをひとまとめに収納するためのポケット付きの見開きタイプになっています。
印刷用紙の選択やロゴエンボス、差し込み仕様など、当社の担当スタッフが打合せを重ねて厳選しました。中でも注目していただきたいのは、全体のデザインならびに撮影、印刷加工をご協力いただいた株式会社タイタン・アート様による見開きページのイラストとデザインです。私たちの日常の仕事風景が投影されており、当社にお越しになったことのある方はもちろん、「今日の工房」をご覧いただいている皆さまにもお馴染みのシーンや製品、機材が描かれています。当社の雰囲気を感じていただだけるような、私たち自身も見ていて楽しいパンフレットです。ぜひそちらも注目してご覧ください。
2019年10月16日(水)文化財防虫防菌処理実務講習会に出展しました
10月10日、11日の2日間にわたり公益財団法人文化財虫害菌研究所主催、文化庁後援による「第39回文化財防虫防菌処理実務講習会」が日本教育会館中会議室にて開催されました。講習会では、文化財の保存と活用、文化財IPMと防災のあり方、各展示収蔵施設における文化財の保存管理、環境把握、虫・菌害の防除対策等をテーマとして計8つの講義が行われ、一般の文化財保存管理者をはじめ、文化財に関する生物被害防除業務に携わる100名以上の方々が参加されました。
機器展示の弊社ブースではアーカイバル容器、空気清浄機付「ドライクリーニング・ボックス」、無酸素パック「Moldenybe®モルデナイベ」、汚染ガス吸着シート「GasQ®ガスキュウ」、新薄葉紙「Qlumin™くるみん」を展示しました。また、弊社代理店IPMサポート株式会社の新商品「IPMトラップ※意匠登録出願中」を参考出品しました。IPMトラップは文化財害虫の侵入状況を調査するための粘着トラップです。従来の同等品に比べて組み立てが簡単、小型で設置しやすく、正面と側面がフラップレスのため害虫が入りやすい構造であることが大きな特徴です。記入欄もあるので設置場所、設置日時を書き込む事もできます。本製品のお問い合わせは下記まで。
IPMサポート株式会社
〒299-4502 千葉県いすみ市岬町中原422
TEL:0470-64-6824
FAX:0470-64-6825
email: t.hasegawa[@]ipm-s.co.jp
弊社ブースにお立ち寄りくださった方々に心より御礼申し上げます。
【関連情報】
◆『スタッフのチカラ』2015年12月2日 資料に付着した汚れやカビのドライ・クリーニング
◆『今日の工房』2014年09月26日 カビが発生した資料のクリーニング
◆『今日の工房』2019年6月19日 共立女子大学図書館様の貴重書1900点のカビ被害のクリーニングから保存容器収納まで
2019年10月9日(水)先月の台風15号による被災資料への各地の資料保全ネットワークの活動について
2019年9月9日の台風15号により、千葉県を中心に大きな被害が出ております。被災されました多くの方々に心よりお見舞い申し上げます。また復旧・復興のためにご尽力されている方々に深甚の敬意を表し、一刻も早い復旧を祈念いたします。
千葉県内の文化財関係の被災状況については、千葉歴史・自然資料救済ネットワークのブログに情報が掲載されております。現在、各地の資料保全ネットワーク関係者、地域の大学・博物館・資料館・文書館などに所属する研究者によって状況調査が進められており、被害対応や緊急支援をはじめとした手立てを講じるとともに、各資料ネットワーク間で情報共有が図られています。
私どもでは、目下、情報を収集しているところですが、今後、緊急支援・一時保管などの事態が発生した場合には状況また要請に応じて可能な支援を実施できればと考えております。
【関連情報】
2019年10月2日(水)企業史料協議会様主催 第13回資料管理研修セミナー「紙資料の保存、修理について」が弊社にて開催されました
9月20日、企業史料協議会様主催の第13回資料管理研修セミナー「紙資料の保存、修理について」が弊社にて開催されました。弊社での開催は2015年9月以来4年ぶりで、各機関よりアーカイブご担当者様など16名の方にご参加いただきました。今回は、修理(コンサベーション)、アーカイバル容器製造、営業の各部門がこれまでの経験をもとに「企業アーカイブにおいて資料に最適な保存対策を決定し、実践していく」過程において判断の一助となるようなプログラムをめざし、下記のような内容で見学会を行いました。
■修理(コンサベーション)部門
・近現代紙資料の劣化とその特徴
新聞、原稿、ポスター、図面などを例に、劣化損傷の要因とその修理技術や保管方法について
・資料のデジタル化とそれに伴う処置
台紙に貼られた写真、スクラップブックなどをデジタル化する過程で必要な撮影前と撮影後の処置について
・資料調査から処置への流れ
保存処置方針の組み立てに必要な情報を得るため、まず資料全体を調査し、処置の方針を固めていく工程を紹介
■アーカイバル容器製造部門
・なぜアーカイバル容器が必要か
長期保存のための容器に求められる品質、条件について
・アーカイバル容器を選ぶ際の考え方
実際に容器を検討する際に、どういった点に配慮すべきかについて
■営業部門
・導入事例紹介
企業アーカイブ様から多くご相談をいただく写真アルバムへの修理と資料整理に適した保存容器の事例
それぞれのお客様の抱える問題やご要望に沿った過不足ない提案、導入までの経緯とその効果を紹介
質疑応答では多くのご質問をいただき、皆様の熱意、資料に対する真剣な思いがあふれるような会となり、私たちも大いに刺激を受けました。
また、資料保存について個々の処置にとどまらず「全体をどのようにとらえ進めていくか」という視点で見学会を行ったのは弊社にとって初の試みで、多くの学びを得ることができました。
この機会をくださいました企業史料協議会様、事例紹介をご快諾いただいた企業各位、参加者の皆様に心より御礼申し上げます。
2019年9月18日(水)修補の際は、色々な厚みの和紙を使い分けています。
修補の際は、本紙の厚みによって使用する和紙の厚みを調整しています。例えば、重量のある本の背ごしらえや、厚みのある表紙の欠損箇所の補填には厚手の和紙を用いたり、破れの修補を行う際には、薄手の和紙を使用することで修補箇所に厚みが出ないようにしています。
また、紙力が低下した資料で表面に文字が記載されている場合は、文字情報を生かしつつ、取り扱いに支障が出ないように極薄の和紙を使用して表打ちや裏打ちを行うなど、本紙の厚みだけではなく、目的によって使い分ける場合もあります。この他にも、数種の和紙を貼り合わせて必要な厚みを出したり、本紙の質感によっては、楮以外にも、雁皮や三椏を原料とした和紙を使うこともあります。
数ある和紙の中から、本紙の厚みや質感、損傷具合、利用用途などに応じて最適なものを選択しています。
【関連情報】
『今日の工房』2019年8月22日(木)明治大学平和教育登戸研究所史料館様が所蔵する終戦時に書かれた女学生の日誌の修理とデジタル化を行いました。
『今日の工房』2018年7月18日(水)紙力が著しく低下したものの薄葉紙での裏打ちは、噴霧器での糊さしと不織布の補助で。
2019年9月12日(木)日本初開催の国際博物館会議「第25回ICOM京都大会2019」に出展・参加しました。
9月7日、 第25回ICOM(国際博物館会議、以下ICOM)京都大会2019 が閉幕いたしました。国内では初開催となり120の国と地域から4,590人の参加者が集まりました。
先週お伝えしました通り、弊社はALOZ日通商事 様と日本通運美術品事業部 様とのコラボブースを出展しておりました。お越しくださいました皆さま、誠にありがとうございました。
今回、弊社はアーカイバル容器と機能性保存用品の2つを軸にブースを展開いたしました。
保存容器については「日本の職人技」をアピールすべく、マグネット留め具付きの棚はめ式保存箱や軸受け付きの巻子台差し箱など、丁寧な造りと細部にまでこだわったものを展示いたしました。
保存用品のコーナーでは、活性炭の使用が主流である欧米では類のない汚染ガス吸着シート「GasQ®ガスキュウ」の性能比較展示を行なったり、美術品梱包・運搬に特化した専門家による仏像梱包のデモンストレーションと併せて新薄葉紙「Qlumin™くるみん」をご紹介いただくなど、ICOMならではの企画展示をすることができました。
国際会議というだけあり、来場者にはアジアや欧米など外国からいらした方々が多くお見えになりました。このような機会で新たなご縁が生まれるのは喜ばしいことです。はるばる遠方からいらしたお客様にとっても何か「気づき」を得る機会となったならば幸いです。私共も自分たちの活動を紹介し海外の専門家と交流することで様々な新しい発見があり、海外展開の可能性が広がりました。
最後になりましたが、ICOMへの出展、コラボブースの実現にはALOZ日通商事様、 日本通運美術品事業部様の多大なるご協力をいただきました。
ここに御礼を申し上げます。ありがとうございました。
Thank you for visiting our booth at ICOM2019 Kyoto. The Museum Fair and Exhibition was a great success and it gave us the opportunity to showcase our full latest products. We were so happy to see so many people coming to our presentation and we appreciate everyone stopping by our exhibition booth during the conference.
2019年9月5日(木)第33回日本看護歴史学会学術集会に出展致しました。
8月31日(土)、9月1日(日)の2日間、日本赤十字看護大学広尾キャンパスにて第33回日本看護歴史学会学術集会が開催され、当社はブース出展致しました。
この学術集会は、看護の歴史の研究と交流を目的として、日本看護歴史学会が設立された1987年から毎年行われているそうです。今回の学術集会では、会員数約350名中、245名が参加され、講演や交流セッションでは様々な討論が熱心に行われており、参加された方々の熱意を感じることができました。
当社は初めての出展で、これまで接点がなかった方々とお話をすることができました。当社のことを知っている方は少なかったのですが、「寄贈を受けた資料にカビが生えていたが、どうしたらよいか?」、「破損してしまった本は直すことはできるのか?」「資料を移動する際はどのようなことに気を付けたらよいか」など具体的な相談もいただき、事例を交えながら説明を致しました。
お立ち寄りいただいた皆様に御礼申し上げます。
2019年9月2日(月)第25回ICOM(国際博物館会議)京都大会2019が始まりました。
9月1日から第25回ICOM(国際博物館会議)京都大会2019が始まりました。国立京都国際会館をメイン会場に、世界141の国と地域から3000人を超える博物館の専門家が一堂に会し、ミュージアムとミュージアムの専門職が抱える様々な課題をテーマに議論が交わされます。9月1日(日)~ 9月7日(土)の本会議期間中には京都市内各所でイベントも開催されます。
また、京都国際会館会場では9月2日(月)~4日(水)の3日間にわたりミュージアムや文化に関わる多彩な企業・団体およそ200ブースが出展する「ミュージアムフェア」が開催され様々なパフォーマンスやワークショップ、セミナーが行われます。
今回、資料保存器材はミュージアムフェアに参加し、弊社製品の代理店となるALOZ日通商事と日本通運とのコラボブースを出展しています。貴重な美術品や文化財の梱包から国内外輸送まで手掛けるプロフェッショナルな技術と日本の高品質な文化財保護用資材をご覧ください。
国立京都国際会館イベントホールE04ブースにて、皆さまのご来場をお待ちしております。
Are you at #ICOM2019 in Kyoto? drop by our booth E04 in the event hall, for conference specials & to chat with us! We are confident that this ICOM meeting will be precious opportunity for all of us to share information and experience.
2019年8月28日(水)社員研修としてアーカイバルボードの製造工場「特種東海製紙三島工場」に行ってきました。
株式会社TTトレーディング、特種東海製紙株式会社のご協力のもと、弊社製保存容器に使用しているアーカイバルボードを製造している特種東海製紙株式会社三島工場とPam(Paper and Material)を見学させていただきました。三島工場ではアーカイバルボードなどの保護紙以外にも、通帳用紙・医用包材・食品包材などの特殊機能紙、ファンシーペーパーや高級印刷紙などの特殊印刷紙が製造されています。
はじめに、特種東海製紙株式会社三島工場管理部の方から会社概要をご説明いただき、製紙工場内部を見学するための準備を整えた後、大小様々な抄紙機が稼働する工場内へ。製造・品質管理部の方々のご案内で、パルプ原料の調整工程から大量の水を使う抄紙工程、プレスパートと呼ばれる乾燥工程を経て品質確認、加工、梱包される工程を見学しました。工場内では安全面や効率面などでも色々な工夫がされていました。また、工場内で使われた水はきれいに浄化され河川に戻すという仕組みだそうです。ここで除去された汚泥物は工場内で燃やし、その熱を利用して発生させた蒸気は紙を乾燥させるために使われ、燃やされた汚泥物の灰は、レンガやブロックとして再生され建設資材に使われるそうです。洋紙の製造工程を真近に体感できたとても貴重な機会でした。工場スタッフの方からご教示いただいた中で、特に感銘を受けたのは紙の品質管理についての解説でした。
『特殊紙の品質は一般紙に比べよりクリーンである事が求められます。高品質な紙の製造には水質のきれいな水が不可欠です。三島工場では紙を製造する全ての工程で使用する水に、工場内の地下を流れる富士山の伏流水を使用しています。50年以上をかけて地下でろ過された伏流水は、不純物が極めて少ない(キレイ過ぎて飲用としては味気ない程)高純度の状態で取水され、三島工場で製造されている特殊紙の品質を支えています。』
特殊機能紙を製造する抄紙機は、クリーン棟と呼ばれる異物や虫の侵入を防ぐための設備を完備した施設で稼働しており、作業員の出入りを最小限に抑えるため製造工程がオートメーション管理されています。”特種”な美しい紙がうまれるためのタネは、きれいな水と徹底した衛生管理に秘密がありました。
続いて特種東海製紙Pamを訪問しました。特種東海製紙Pamでは創業以来製造されてきた様々な特殊紙が収蔵・展示されており、こちらは営業部の方々の解説でご案内いただきました。時代のニーズに応じて開発された特殊紙や貴重な紙製品、多彩なファンシーペーパーの美しさに触れながら、紙づくりの高い技術と品質について学ぶことができました。普段、紙だったと気が付かないほど無意識に紙製品に囲まれていることも実感できました。
見学に際し、ご協力いただきました特種東海製紙株式会社社員の皆様に感謝申し上げます。ありがとうございました。
2019年8月22日(木)明治大学平和教育登戸研究所資料館様が所蔵する終戦時に書かれた女学生の日誌の修理とデジタル化を行いました。
明治大学平和教育登戸研究所は戦前に旧日本陸軍によって開設された研究所で、現在は明治大学生田キャンパス内の一画に資料館として、当時の登戸研究所の活動や研究内容を中心に公開しています。
今回修理のご依頼を頂いた資料は、群馬県立前橋高等女学校に在学中、登戸研究所で研究開発した風船爆弾の製造に動員された女学生の日誌で、弊社へご依頼頂いた経緯や資料の概要について、資料館のご担当者様より、ご依頼の経緯と資料の概要について、以下のようなコメントをいただきました。
[ご依頼の経緯、資料の概要]
原蔵者の方は、昭和19年に2年生だったそうなので、終戦時の年齢は15,6才位でしょうか。当時は学校へ行っても、勉強はほとんどできず、毎日農家の手伝いや軍需工場に動員されていました。この原蔵者の場合、ある日突然、学校自体が風船爆弾の工場となり、女学生が分担してつらい作業をさせられることになったそうです。
今回修復していただいた史料はそうした動員作業など当時の学校生活について記した日誌3冊のうちの一冊です(他の2冊は紙質はよくないものの比較的状態がよい)。ノートにその日の作業内容や感想などを書き、学校の先生に渡して報告していたそうです。ところどころ、赤ペンの書込みがありますが、赤ペンは先生が記入したものだと言う事です。
補修した史料は8月15日前後の日誌で、この時期風船爆弾製造作業はしていなかったようですが、終戦当時の状況や女学生の心情が記されている貴重なものです。風船爆弾は登戸研究所で研究開発したもので、直径10mの和紙製気球に爆弾を付けてアメリカ大陸を攻撃する兵器です。その和紙の貼り合せなどには、日本全国の女学生などが動員され、学校が製造工場になった所も多かったそうです。
約一万発が打ち上げられ、一割位がアメリカ大陸に到達したと推定されています。風まかせで飛ぶので、多くは砂漠や山に落ちて山火事程度の被害しか与えられませんが、山に不時着した風船爆弾にたまたまピクニックに来ていた子供達が触れて6名の犠牲者が出ています(アメリカ本土ではこの戦争による唯一の犠牲)。
原蔵者は8月15日に敗戦を知り、くやしい気持ちを激しい調子でこの日誌に綴っています(「悔しさと敵愾心で胸がかきむしられる」「血も涙もないヤンキー」「きっと仇をとる」など)。軍国主義の教育を受けた当時の女学生としては、一般的な心情だったようです。ですが、十数年前風船爆弾に関するテレビの取材を受けた時、自分たちが作った風船爆弾で子供を含む6名の方が亡くなったことを初めて知り、大変なショックを受けたそうです。以後、自分は戦争の被害者というだけはなく加害者でもあると、風船爆弾製造に動員された時のことを積極的に後世に伝えるようとされています。
今回修復した日誌はこの「8/15」の記載があるため、あちこちへ持ち出して見せたり、読み聞かせたりしていたようです(取材をうけたテレビ番組でもボロボロの状態なのに丸めて、当該箇所を示す様子が写ってました)。そのため元々3冊の中でも一番紙質が悪かったのにさらに状態を悪化させてしまったのかもしれません。そのため、今回この日誌の修復をお願いした次第です。
[資料の状態]
形態はパルプ紙を基材としたA5サイズのノート。ほとんどが鉛筆書きによるものだが、所々に赤ペンによる書き込みが見られる。酸化・酸性化による紙力の低下が著しく、特に全ページにわたって見られる水損による染みの箇所の傷みが顕著で、既に欠失している箇所も多数あり、現状は頁を捲るのも困難な状態である。
[処置概要]
今後の利用や展示などへの活用を踏まえ、取扱いに支障がなく、閲覧可能な状態になるよう処置を行い、デジタル撮影(担当は株式会社インフォマージュ)もあわせて行った。具体的には資料の紙力強化をはかるため、一枚の本紙に対して表打ちと裏打ちの両方を行った。その際、文字情報をできるだけ阻害しないよう、極薄の和紙(3.6 g/m2)を用いて行った。また、酸性劣化の進行を抑制するため、Bookkeeper法による非水性脱酸性化処置を行った。
デジタル撮影は処置後に行ったが、元々本紙の文字が鉛筆書きで薄く、本紙の茶褐色化により現状でも読みにくい状態ではあったが、処置後はさらに表打ちにより文字が読みにくい状態となったため、デジタル画像上で文字を強調する画像加工も行った。
処置後の資料は、原本は資料館様で保存され、加工データからのコピーは原蔵者様にお渡ししたとのことです。
原蔵者の方は思い入れのある日誌がボロボロになっていくのを気にしていらっしゃったそうで、処置後の資料を見て、大変きれいな状態になり、コピーも大変読みやすいとご満足いただいたとのご感想いただきました。
2019年8月7日(水)【文献紹介】「紙と水—コンサーバターのための手引き」(英文)改訂版が出版
「紙と水–コンサーバターのための手引き」
この本は紙を基材としたあらゆる文化財の保存に関わるコンサーバター(保存修復専門家)のための手引きである。初版は2011年に刊行、昨年(2018年)新たに改訂・ 出版された。保存科学者、民間企業の技術者、保存修復に携わるコンサーバター等、欧米の第一人者が結集し、紙製の文化財の保存実務に必須の「紙と水」の知識を、最新の研究成果の裏付けとともに網羅的に述べている。初版刊行以来、世界中のコンサーバターに高い評価を持って迎えられた。2013年にはアメリカ文化財保存修復学会(AIC)の出版文化賞を受賞している。
紙と水は不可分の関係を持つ。製紙は水が無ければできない。そして書籍、文書等の紙媒体の記録資料や、紙を素材とした美術作品の保存修復にも水は不可欠である。丸まった紙資料を平らにする、汚れを洗い流す、欠損部を水溶性の接着剤で補修する、酸性の紙の中にアルカリ性の水溶液を行き渡らせ、脱酸性化しアルカリ・ バッファを付与する—。修理の際に水が関連しない工程は無いと言って良く、適切な処置を行うには、紙と水、そして両者の相互作用を理解しなければならない。
また、図書や文書等の紙媒体記録資料を保存し末永く利用に供する責任のある図書館員やアーキビスト、紙基材の絵画や写真、立体的な芸術作品を集め保管し、展示等の利用に供する美術館のキュレーターにとっても、紙と水の知識は不可欠である。例えば保管時の適切な湿度やその変動と、それがもたらす劣化は、紙と水との相互作用に起因するといって過言ではないから。
なお初版(2011年)との大幅な変更はないが、新たに「9章. 紙の特性評価」が加わった。
章立ては以下の通り。
1. 関連する化学
2. 水の物性
3. 水の電離–酸と塩基
4. 湿紙と乾紙の構造と物性
5. パルプ化工程の紙と水の相互作用への影響
6. 紙と水の相互作用への滲みどめの影響
7. 製紙時の乾燥
8. 紙の老化と水の影響
9. 紙の特性評価
10. 紙への水の導入
11. 紙からの変色物の除去
12. コンサベーション時の洗浄
13. 水性脱酸性化処置
14. コンサベーション時の乾燥
15. 一連の作業の中の水性処置
2019年7月31日(水)大きい資料や、重たい資料には、「底板補強」でより堅牢な箱の仕様に。
一人では持てないほどの大きな資料や、重たい資料を保存箱に入れたい場合、底板を底面に貼り付け、二重にして補強する、「底板補強」という仕様があります。 弊社の保存箱の中では、額装絵画や大型楽器、民具など、重量物を収納することが多い台差し箱や被せ箱にあわせてご提案させていただくことが多いです。
大きな保存箱を取り扱う際には、底面にどうしても「ねじれ」や「たわみ」が生じてしまいますが、底面を二重に補強することで、剛性が高くなり、ゆがみによる資料への負荷を軽減させ、資料をより安定した状態で持ち運ぶことができます。 また、特に重い資料は底面に大きな力が加わるため、剛性が高く、重みでつぶれることもない、ポリプロピレン製のプラスチック段ボールを底板に使用する場合もございます。
「底板補強」の仕様は、資料の大きさや材質、重さや量をお伺いして、ご提案させていただきます。
2019年7月24日(水)新しい手ぬぐいが仕上がりました。
今夏もお客様にお届けする手拭いが仕上がりました。柄はこれまでと少し趣向を変えて弊社のロゴのアレンジです。包む、敷く、かけるなど使い方は様々ですが、例えば日焼け防止&冷房対策用のくびまきにいかがでしょうか?
2019年7月18日(木)汚れた紙資料の水性処置では、洗浄の前にまず「濡らす」ことがなぜ重要なのか?
2019年7月10日(水)虫菌害・保存対策研修会の展示ブースで弊社製品のIPMへの効率的な導入などを事例と共に紹介しました。
公益財団法人文化財虫菌害研究所主催による「第41回文化財の虫菌害・保存対策研修会」が7月4日(木)・5日(金)の2日間、国立オリンピック記念青少年総合センターにて開催されました。今年度は、文化財分野における虫菌害に関する基礎知識のほか、展示収蔵施設における虫・カビの調査と結果の解析、各施設における虫菌害防除の取り組みの様子などをテーマとし、計8つの講義が行われました。研修会には「文化財IPMコーディネーター」の有資格者や資格更新者、取得希望者、文化財を保存管理する博物館・美術館、図書館等の担当者など、文化財に関する生物被害防除業務に携わる方々を中心に200名を超える参加がありました。
機器展示の弊社ブースではアーカイバル容器、空気清浄機付「ドライクリーニング・ボックス」、無酸素パック「Moldenybe®モルデナイベ」、汚染ガス吸着シート「GasQ®ガスキュウ」、新薄葉紙「Qlumin™くるみん」を展示しました。ご来場された受講者の方々からは、弊社製品に関するご質問のほか、自館で実施しているIPMを中心とした生物被害防除にどの様に組み込めるか、また、今後具体的な対策を講じる過程でIPMを効果的にかつ持続的に行うにはどうしたらよいかといったご相談もいただき、 事例を交えながら実践的な技術や製品の適切な使い方をご紹介しました。お立ち寄りいただいた皆様に心より御礼申し上げます。
【関連情報】
▶︎『今日の工房』2019年6月19日 共立女子大学図書館様の貴重書1900点のカビ被害のクリーニングから保存容器収納まで
2019年6月26日(水)第41回文化財保存修復学会に出店し、お客様の率直なご意見やご要望を聞くことができました。
6月22日(土)、23日(日)の2日間、帝京大学八王子キャンパスにて第41回文化財保存修復学会が開催され、当社もブース出展いたしました。ご好評をいただいている「新薄葉紙Qlumin™くるみん」、「防カビ・殺虫ができる無酸素パックMoldenybe®モルデナイベ」、「汚染ガス吸着シートGasQ®ガスキュウ」、「ドライクリーニング・ボックス」については今年も多くの関心をお寄せいただき、海外からのお問い合わせもいただきました。両日ともあいにくの雨模様でしたが、お運びくださいました皆様には心より御礼申し上げます。
各製品に対してのお客様からのご意見やご質問を以下にまとめました。
▶︎「ドライクリーニング・ボックス」
・滅菌機能は付けられないか。
・紙資料だけでなく、博物資料に使ってみたい。
・定型より大きなものが欲しい。
・プルーフタイプの本体だけ購入できないか。
※定型外の特注サイズ、また空気清浄機を含まない本体だけのご購入につきましては対応できますので、お問い合わせください。
▶︎「モルデナイベ」
・ガスバリア袋は再利用は可能か。
・ガスバリア袋を開封しても脱酸素剤は引き続き使えるか。
※ガスバリア袋は、破れたり穴が開いたりしない限りは再利用可能です。使用済みの脱酸素材は有効性が失われていることがありますので再使用をお控えください。
▶︎「くるみん・GasQ」
・くるみんは表面が滑らかでカビが生えにくいので、漆器の保護用に関心がある。
・ガス吸着の限界やお勧めの交換時期があるのか。
※ご使用状況によって取り換え時期が異なるため、頃合いを見てインジケーターで測定していただくか、定期点検時などに交換していただいております。
▶︎「アーカイバル容器」
・品質はもとより木箱よりも軽く取り回しがいい点でも中性紙箱は重宝している。
・写真資料の整理用に特殊サイズに対応する包材と箱に関心がある。
皆様から頂いた貴重なご意見、ご要望は製品の改良と品質の向上に役立ててまいります。今後とも、何卒よろしくお願い申し上げます。
2019年6月19日(水)共立女子大学図書館様の貴重書1900点のカビ被害のクリーニングから保存容器収納まで。
共立女子大学図書館様の所蔵する貴重書に対して、資料の一部にカビ被害が発見されたことを機に、資料と書架の一斉クリーニングを行い保存容器を導入して再配架しました。
貴重書室の資料は洋書・和書約1900点。まず資料全点を無酸素パック「モルデナイベ」にパッキングしてカビ残滓等の飛散を防止した状態で別室に運び出し、そのまま無酸素状態を3週間以上維持させて殺虫とカビ抑制処置を行った。経過後は開封し、ブラシを装着したHEPAフィルター付き掃除機で資料表面や小口に堆積した塵芥やカビ残滓を吸引した後、消毒用エタノールをしみ込ませたクリーニングクロスでふき取ってクリーニングを行った。
空になった書架は清掃し、「棚はめ込み箱」をはめ込んで、クリーニングが済んだ資料を再配架した。和書の布帙は、破損やカビ跡が見られるものが多かったため「タトウ式保存箱」に入れ替えた。重量がある大型資料は一点ずつ「タトウ式保存箱」「組み立て式シェルボックス」に収納することで、安定して配架、取り扱いできるようになった。
一連の工程のうち、無酸素パック「モルデナイベ」へのパッキング作業は、共立女子大学図書館スタッフの方々により行われました。「モルデナイベ」はスタッフ様自らが館内でのご使用可能です。ぜひご活用ください。
2019年6月12日(水)ロール・エンキャプシュレーションのサンプルを作る。
ロール・エンキャプシュレーションとは、一辺だけを溶着した2枚のポリエステルフィルムの間に、ポスターや図面などの比較的大きなサイズの紙資料を挟み、フィルムごと巻いた状態で保管する方法です。
資料をむき出しの状態で丸めて保管していると、周辺部に折れや破れが起こりやすくなります。ロール・エンキャプシュレーション処置により、そのような物理的な損傷からの保護に加え、A1サイズを越えるような大きな資料でも省スペースで収納することができます。
工房では、経年による変化、特に、長期間保管した後にロールを開いた際の巻癖の強弱を確認するために、挟み込む資料のサイズや厚み、紙質等、あらゆる場合を想定したサンプルを作成して実際の処置の参考にしています。例えば、直径の大きさの異なる筒にサンプル資料を入れ、直径の大小により、元に戻した時の巻癖の違いがどの程度、資料に影響するかなどを検証しています。
【関連情報】
『今日の工房』2018年2月21日(水)フィルム・エンキャプシュレーションの現在(1)
『今日の工房』2018年2月28日(水)フィルム・エンキャプシュレーションの現在(2)
『今日の工房』2018年3月08日(木)フィルム・エンキャプシュレーションの現在(3)
2019年6月5日(水)放送業務用映像記録ディスクを持ち運びできる、窓付き保管ケース
某放送局様からのご依頼で、映像制作の現場で広く使用されているXDCAMファイル記録用光ディスクの保管ケースを製作した。
保管ケースの設計に関してお客様からの4点のリクエストを頂戴した。
①ディスクのタイトルラベルが覗ける窓が欲しい。
②局内等で安全に持ち運びできるよう持ち手が欲しい。
③外部への持ち出しも想定し、汚れや少々の水濡れに耐えるようにして欲しい。
④収録内容のデータをプリントアウトした紙が収納できるホルダーを付けて欲しい。
ケースの基本形状は、蓋の開閉が容易に行えて且つ持ち運びの際に不用意に開かぬよう、ポリアセタール製留め具付きで蓋と身がつながっている箱にした。覗き窓にはポリエステル製のフィルムを使用し、天面にはポリエチレン製の提げ手を取り付けた。ケース表面には不活性フィルムをコートするプルーフ加工を施し、撥水性と汚れが拭き取れる防汚性を持たせた。収納するディスクに付随するカードを差し込めるホルダーを、ケースの外面2か所に取り付けた。
弊社で製作する各種アーカイバル容器は、ご要望に合わせて細かい設計変更が可能です。是非ご相談ください。