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2020年5月20日(水)「綴じ」を「抜かし」綴じ上げる
かがり綴じのなかには抜き綴じという技法があります。 通常かがり綴じは、一括ずつ綴じ穴すべてに糸を通し綴じていきますが、抜き綴じはその名の通り、1回の運針で2括ないし3括を交互に「抜き」綴じます。現在の修理製本では主に本文紙が薄い資料や括数が多い場合に、綴じ糸により背幅が膨らみすぎるのを防ぐために用いられていますが、この技法が多用された17世紀、18世紀ごろは、綴じる時間の短縮を目的に用いられることが多かったようです。
今回は文庫本ほどの小型で厚みが6㎝ある資料に、抜き綴じを採用しました。一般的にかがり綴じよりも抜き綴じは強度が落ちると言われていますが、支持体を3本用いて、綴じ穴の数を増やすことで、安定した綴じ上がりとなり、厚みも綴じる前とほぼ変わらない仕上がりとなりました(図②を参考)。
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・『今日の工房』2008年12月12日 洋装本の括(signature)の綴じ方のあれこれ
・ The Art of Bookbinding/Chapter 5 by Joseph William Zaehnsdorf
2020年5月15日(金) 収蔵庫の限りあるスペースを効率的に使うには?〜実例からみる収納アイデア~
保存箱は資料の寸法に合わせて作成するのが基本ですが、収納棚に大小様々な保存箱を並べると、余分な空間ができてしまうことがあります。
収蔵棚やキャビネットのスペースを無駄なく使うために大切なことは、3つあります。ひとつは、棚の奥行きや幅に合うように箱の「外寸を揃える」こと。箱の外寸を揃えると、安定して積み重ねることができ、上下に空いた空間を有効活用できます。箱を並べたときの統一感を作るポイントでもあります。
次は、資料を整理・分類し、サイズ違いのものをまとめて収納する「しまい方」を工夫すること。箱の中を仕切りやスペーサーで区切ることで、取り出しやすく一目でわかる収納ができます。
最後に、資料を計測して寸法と数量を確認する。同時に、収納用品を置きたいスペースの広さも測る。もの、場所、大きさを意識し、全体のバランスを考えながら整理・収納することで、収蔵庫の限りあるスペースを効率的に使うことができます。
弊社では、お客様のところに伺い資料を採寸するサービスを行っていますが、資料に合った保存箱を作成するだけでなく、収納スペースや利用頻度などをお伺いし、お客様それぞれの状況に合った保存箱のご提案を心がけています。
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・2019年2月27日(水)今日の工房『資料の同じシリーズや付属品を一つの箱に収納する場合、立体パズルのように設計していきます
・2015年06月17日(水) 今日の工房『歴代延岡藩主の印章を保管するー多様な素材と形にシンク式容器とGasQ®で対応』
2020年4月9日(木)定番・規格製品の専用梱包箱について
製品の梱包方法について過去に何度か紹介してきましたが、弊社の定番・規格製品には、使用、保管するときの利便性を考えた専用の梱包箱をご用意しております。
実際にどんな種類の梱包箱があるのか、その一部を紹介します。
Moldenybe®モルデナイベのガスバリア袋(写真1、写真2)や、Qlumin™くるみんとGasQ®ガスキュウのロール品(写真3)など、通常時は梱包箱に入れておくことで保管や移動を安全に行えるようになります。
保管性だけでなく、製品の利便性を高める梱包箱もあります。Qlumin™くるみんの断裁品の梱包箱はその一つです。箱のフタを中央の位置で折ることができ、手間なく必要な枚数だけを取り出すことができます。(写真4)
またドライクリーニング・ボックスの梱包箱は空気清浄機とドライクリーニング・ボックス本体をまとめて保管しておけるだけでなく、側面に取っ手穴を付けることで持ち運びやすさを高めています。この取っ手穴は展示会でお伺いしたお客様のご要望をもとにしたものです。(写真5、写真6)
このような定番・規格製品以外についても、弊社では小さなものから大型のものまで、形状も多種多様な製品を提供しています。それらを安全に輸送するためには、既存の梱包材を使用するだけでなく、梱包箱を一から設計することが必要になるケースもあります。
製品の形状・性質に応じて、形態、方法、緩衝材の材質などを選択し、輸送時に発生する衝撃、振動などのあらゆるリスクから荷物を保護するため、一つひとつに適した梱包箱をカスタマイズしています。
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・2012年06月07日(木)今日の工房『段ボール加工のためのアイデア治具』
2020年3月27日(金)虫損が著しい文書修理の第一歩は「剥がす」
折状などの古文書や、糸綴じされている和装本のように、主に和紙を基材とした資料に多く見られる損傷が虫損です。紙の表面を舐めるように虫に喰われていたり、紙束の上から下を貫通するように穴が開いていることもあります。その穴の周りに虫糞を残しながら侵食していくのですが、虫糞が固まって隣の丁の虫穴と固着、さらに隣の丁と固着してしまうため、そこだけ紙が貼りついている様に見えます。虫穴が一箇所、あるいは数カ所だけであれば、ゆっくりめくることで虫糞が落ちて固着を外すことはできます。しかし虫損が全面に生じると、紙束は板のように固まってしまい剥がすことは非常に困難です。
こうした資料の修理をお客様からご相談いただく際、「剥がすために何か機械を使うのですか?」「コツはありますか?」など話題になりますが、何より人手と根気が必要な作業といえます。文字情報を損ねることなく安全な状態で次の処置へ移るために、時間をかけて丁寧に行なっています。
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今日の工房2016年8月24日(水) 虫損がひどい資料へのリーフキャスティング(漉き填め)による修理
2020年3月19日(木)【文献紹介】『Preventive Conservation: Collection Storage』が上梓
『Preventive Conservation: Collection Storage』
編者= Lisa Elkin and Christopher A. Norris
協力連携=SPNHC(The Society for the Preservation of Natural History Collections; 自然史コレクションの保全に関する国際学会、通称スピナッチ)、 AIC(American Institute for Conservation of Historic & Artistic Works; アメリカ文化財保存修復学会)、Smithsonian Institution(スミソニアン協会)、George Washington University Museum Studies Program(ジョージ・ワシントン大学博物館研究)
文化財全般の維持管理に関連する幅広い課題と保存対策について、世界の専門家を結集し実証的な観点から論じた『Preventive Conservation: Collection Storage』が昨年9月に刊行された。編者はアメリカ自然史博物館のLisa Elkin(Chief Registrar and Director of Conservation)とイェール・ピーボディ自然史博物館のChristopher A. Norris(Senior Collection Manager)。本書は、予防保存の基本的な概念や保存計画の立て方・考え方に始まり、保存アセスメント、保管施設の計画と構築、環境管理、防災・救助計画、コレクションの移動、セキュリティ、保管施設の運営方法、保管状況における安全と健康の問題、害虫管理、多様な文化財の種類と特徴、包材のマテリアルテスト、デジタル記録の保存、環境モニタリング、保存資材と材料、保管ガイドラインとリスク管理—と、デジタルコレクションを含むあらゆるタイプの所蔵品を対象とした、現時点でのコレクションの維持管理に関する総合的なハンドブックになっている。
▼下記サイトに目次と各章の詳細が掲載されている。
SPNHC wiki : Collection Storage
https://spnhc.biowikifarm.net/wiki/Collection_Storage
2020年3月11日(水)寒川文書館での資料保存ワークショップに出講しました
2月1日(土)、神奈川県寒川町の公文書館、寒川文書館にて開催された資料保存ワークショップ「錆びや傷みから記録を守る」で弊社スタッフが講師を担当しました。
寒川文書館は公文書館法に基づき寒川総合図書館の4階に設置されている公文書館であり、行政資料や古文書、郷土資料等を収集、整理、保存する施設です。今回のワークショップは、文書館利用者やボランティアの方などの町民や地域の一般の方々、寒川文書館館長ならびに職員の皆さまを対象として開催されました。
本や小冊子などへの簡易的な手当てについて、下記のプログラムで資料保存実習を行いました。
* 傷んだ冊子の劣化、損傷の原因、本体の構造、綴じ方について
* 修理に使う道具の説明
* 金属除去、修補、綴じ直し
傷んだ冊子を解体し、普段あまり見ることのない本の内側を観察することで、劣化や損傷が起きた要因を確認しました。
資料の修理には特殊な道具を使用することも多いのですが、今回のワークショップでは修理道具の中でも割とポピュラーなマイクロニッパー、綴じ糸、綴じ針、筆、糊、ろ紙、不織布などの道具を使用し、これらの使い方や注意点についてご紹介しました。
破れてしまったページの修理には水で薄めたでんぷん糊を使います。でんぷん糊は中性であること、水溶性なので後で剥がせることから、資料保存の観点で非常に優れた接着剤ですが「水分量」の調整が肝になり、刷毛や筆への糊の含み具合や塗布後の処理などに気を遣います。とくに劣化資料への修補では、糊が薄すぎると和紙が剥がれたり輪染みになったり、濃すぎると紙がこわばる原因にもなるので、こうした点に気をつけながら実践していただきました。
質疑応答では、資料保存に関する実践的な質問が多く寄せられ、基本技術の習得のみならず、資料の取り扱いを注意することで予防できる損傷も多いことを弊社の事例を紹介しながら解説しました。
ご参加いただいた皆さまに心より御礼申し上げます。
◇具体的な資料の修理手順はこちらで紹介しています。また、弊社で行った資料保存ワークショップはHPで掲載しておりますので、ご興味のある方はぜひご覧ください。
《関連情報》
・独立行政法人国立女性教育会館主催『アーカイブ保存修復研修』
・私立大学図書館協会和漢古典籍研究分科会主催『古典籍資料の補修実演講座』
・NPO文化財保存支援機構主催『平成30年度文化財保存修復を目指す人のための実践コース』
2020年3月4日(水)3月に入り工房は繁忙期の佳境に入りました
今年も3月に入り、弊社では修理部門、保存容器製作部門ともに繁忙期も追い込みの段階となりました。毎日フル回転で修理作業や商品の製作を行い、仕上がったものから順次お客様のもとへお届けしています。保存容器部門では大型箱の受注が多く、なかでも一番大きなものは全長4メートルに及び、工房の窓から7人がかりでの搬出となりました。チャータートラックで送り出した後はまた次の大型箱にとりかかります。
ご注文頂いているお客様にはお待たせしてしまい大変申し訳ございませんが、一日も早くご納品できるようスタッフ一同努めてまいります。
2020年2月26日(水)壊れてしまった無線綴じの写真集へ、どのような手当てが行えるか。
無線綴じとは、糸や金属等を使用せず、本紙の背を断裁して接着剤で綴じただけの製本方法をいいます。これら無線綴じに用いる接着剤は紙を断面で接着する強度と見開きに沿う柔軟性が求められます。近年はより耐久性や柔軟性に優れた接着剤に移行しつつありますが、従来より無線綴じに使用されてきたEVA系ホットメルト(エチレン酢酸ビニール樹脂を主体とする接着剤。60℃以上の熱で溶解し、常温で硬化する)は、製本後、経年や温度変化により再溶解が始まったり、印刷インクの影響を受けて劣化するとされています。特に写真集のように紙が厚く重い資料には、接着剤の劣化に伴い本紙がバラバラに外れてきてしまっているものが見受けられます。
可逆性のある材料として修理に用いるでんぷん糊等の接着剤は、無線綴じ製本を行う用途には適していないため、構造的な修理を行う際は糸綴じする方法を基本としています。
①綴じ穴をあけて糸で平綴じする処置の場合は、ノド元の余白は十分にあるか、製本後の見開き具合は適切か、糸の強度は十分か等を検討します。
②より見開きの良い方法として、断裁された本紙の背を和紙でつないで折丁に仕立て、糸でかがり直す処置があります。大きく構造を作り替えても元の表紙・背表紙に収まるか、ノド元まで印刷されているページは和紙を貼ることで視認性に影響しないか等を検討します。
③印刷されている画像を重視する場合など、資料の性質によってはあえて構造的な修理は行わず現状を維持するための保存容器への収納のみをお勧めすることもあります。バラバラになった本紙が散逸しないよう、中性紙のフォルダに包み保存容器に収納します。
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『今日の工房』2017年10月18日(水)接着剤で無線綴じされた図録を折丁仕立てに作り直し、きれいに見開くように再製本する。
2020年2月19日(水)資料を安全に取り扱うためのフラットニング作業
本紙の折れやシワによって文字が隠れてしまったり、巻いたり折ったりしたことによって巻き癖や折り目がついてしまった資料に対し、無理に広げたり伸ばそうとすると新たな破れやシワをつくってしまうことがあります。例えば、巻かれたポスターを広げる際に巻き戻る力によって破損箇所が拡がったり、本のページが何枚も重なって折れ曲がっていることに気づかずにめくれば、折り目に沿って破れてしまったりします。このような状態の資料に対しフラットニング処置を行うことで、資料を傷めることなく、安心して取り扱いできるようになります。
フラットニング処置は、資料を加湿した後濾紙に挟み、重石やプレス機などで圧力を調整しながら乾燥させ、紙表面を均一に平坦化する処置のことです。ページの角にみられる折れなどは、湿らせた濾紙を当てて部分的に加湿し、乾燥させることで十分軽減させることができますが、資料のサイズや折れ・シワの範囲が大きくなれば、全体を均一に加湿し、乾燥させることが難しくなるため、フラットニングの回数を重ねたり、こまめに確認しながら行います。特に、トレーシングペーパーのような水に敏感な素材の資料については、必要最小限の水分量をコントロールしながら処置を行う必要があります。
フラットニングを行うにあたっては、使用されているインクや紙に対しての十分な調査はもちろん、資料の持つ情報を把握して、それぞれの資料にあった適切な加湿方法で与える水分を調整し、折れやシワの伸展具合を確認しながら慎重に進めていくことが重要となります。
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2020年2月14日(金)巨大な木製オープンラックに嵌め込む中性紙製大型コンテナボックスを作る
美術館のお客様より、収蔵庫の木製オープンラックの内側をアーカイバルボードで覆う囲いを製作して欲しいと依頼を受けた。
ラックの内寸法は幅80cm×高さ60cm×奥行き85cmあり、これを2台連結させ奥行きを170cmにして使用している。お客様からは「このラックの内側を覆い、収納物の出し入れを棚の手前と奥の両側からできるように。また、扉を外した状態でも設置した囲いの天井がたわむ事が無いような工夫を」というご要望をいただいた。
ラックに収納される資料は主に工芸品や美術品で、重量があり且つ慎重な取り扱いが必要な物も含まれている。そのため、囲いは簡便な物ではなく、ラックにそのまま嵌め込む堅牢な造りのコンテナボックスを作り、扉にはフラットなデザインで取り外しが楽にできる倹飩式の蓋を設計した。
コンテナボックスの上枠と箱内の天井にはH型のアルミを補強材として組み込み、蓋のはめ込み部や箱内の天井がたわまないようにした。また、本体側面はアーカイバルボードを4重に積層する補強を加え、扉を外した状態でも本体が歪まない構造となっている。床面にはつぶれや摩擦に強く平滑性の高い0.9mm厚のAFハードボードを貼り込み、重量物の出し入れでもスムーズに引き出せるように加工した。
コンテナボックスに機能性を高めるオプションパーツを組み合わせることで、既存の木製オープンラックの収納性を損なわずに、資料保存に適した保管空間が形成された。
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スタッフのチカラ 2012年07月20日
東京大学地震研究所図書館様におけるトレー付き倹飩式棚はめ込み箱の導入事例
今日の工房 2018年3月21日(水)
神奈川県立歴史博物館様所蔵の屏風を収納するコンテナ・ ボックス
2020年2月5日(水)保存製本の手法を取り入れた一事例
お客様より製本のご依頼をいただきました。
お預かりした資料は、本紙は綴じられておらず、一葉一括(一枚一折り)の本紙束が表紙に模したコの字型カバーに挟まれ、スリップケースに収納されていました。これを、元のコの字型カバーを表紙として活かし、本体を綴じて製本してほしいとのご依頼でしたが、本の形態に仕立てるには2つの問題がありました。
①本体の背幅とコの字型カバーの背幅が合っていない。約8㎜程度本体の背幅が薄い。
②表紙となるコの字型カバーは、本の表紙を想定して作られていないため、本体と表紙を接合した際に、ヒンジ部に過度の負荷がかかり損傷の原因になってしまう。
上記2点を解決するため、保存製本(コンサベーション・バインディング)の手法を取り入れ製本しました。
まず、①の問題を解決するために、“concertina guard”とよばれる本来は本体の括の背を保護するために用いる方法を取り入れました。蛇腹状に折り畳んだ和紙の間に括を挟み入れて、本体の背の厚みを増し、さらに綴じていく糸でも厚みが増すことで、カバーと本体の厚みの差を調整しました。
次に、②のヒンジ部の負荷を分散させるために、“hinged hollow”と呼ばれるヒンジ部が2段階構造になる方法を取り入れました。この製本方法は1980年代にフィンランドの製本業者が開発した“OTABIND”という方法から発展し、現在は保存製本の一つとして応用されています。今回は、本体の見開きを考慮して表紙側のみ、この方法を取り入れました。
元の角背の構造を活かしつつ、本の開閉時にかかるヒンジ部の負担を軽減することができ、元のスリップケースにも納まるよう仕上がりました。
2020年1月29日(水) 東京造形大学附属美術館様の所蔵品、写真家高梨豊氏の作品を保存箱に収納しました。
前回(『絵本作家小野かおるの立体作品の保存箱』事例紹介はこちら)に続いて、東京造形大学附属美術館様所蔵の高梨豊写真作品を収納する保存箱のご依頼をいただきました。写真作品は木製パネルに貼られたものやフォトアクリル加工されたものなど、形態や大きさ、重量も様々なものがあり、これら作品の多くがクラフト紙やエアキャップで簡易梱包され茶段ボール製の箱に収納されていました。こうした酸性紙からできた梱包材は、経時劣化して酸や酸化物を発生し、接触による酸の移行やオフガスを生起して資料を汚染するものが大半です。今回は、こうした旧包材を写真作品の長期保存に適した包材へ交換し、保管場所や棚の収納効率も考慮して作成した保存箱への入れ替え作業を行いました。
①フォトアクリル加工された写真パネルは薄葉紙の上からエアキャップで包まれた状態で茶ダンボール箱に収納されていました。これらの作品は1点毎に薄葉紙で梱包し直し、台差し箱に入れ替えました。
②重量のある木製パネルに貼られた写真作品は2点ずつトレーシングペーパーとエアキャップで包まれ、専用の収蔵棚に収納されていました。これらの作品は元の保管形態は変えずに取り扱いやすく安定した状態で保管できるよう作品サイズに合わせて作成した大型額装作品用の差し込み箱に収納しました。また、画像表面同士の接触を避けるために間紙を挟みました。間紙には酸もアルカリも含まないノンバッファー紙を使用しています。
③シリーズものの木製パネルの写真作品は、クラフト紙に包まれ平置きで茶段ボール1箱にまとめて収められていました。画像面に間紙を挟み2枚ひと組みを対にして重ね、さらにパネル同士の間に中性紙ボードを1枚入れ収納しました。このボードは箱内での余計な動きを抑え表面の擦れを防ぐ緩衝材の役割を果たします。同じように保管されていたフォトアクリル加工の作品は、元の梱包形態を踏襲し、個別に薄葉紙Qlumin™で梱包して中性紙ボードで挟み重ねながら保存箱へ収納しました。
④大型サイズの木製パネル作品は、保存箱には収納せず縦置きで保管したいというご要望から、保存資材を使った梱包のみ行いました。全体を新しいエアキャップで梱包する前に、パネルをGasQシートでしっかりと養生します。また、移動させる際の衝撃や保管中の負荷を最小限に抑えるため、作品サイズに合わせて作成した「中性紙製角あて」を入れるなどの対策を行いました。
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2019年11月7日(木)東京造形大学附属美術館様の所蔵品、絵本作家小野かおるの立体作品の保存箱を製作しました
2020年1月22日(水)オプションサービス「ラベル作製・貼付」のご紹介
資料を保存・管理する上で、欠かせないアイテムがラベルです。保存容器にラベルを貼ることで、資料の表題や出納番号などの書誌情報が一目で識別でき、資料へのアクセシビリティが格段に上がります。
印刷する項目やラベルの貼り方などは、資料の性質や形態、使われ方によって異なるため、この項目だけ書けばよい、というテンプレートがありません。他にも、資料の活用段階によっても項目や用途が異なりますし、運用によっては、ロケーション番号のみを記載した方が良い場合もあります。
弊社では、効率的に資料を探し出せる機能的なラベルだけでなく、分類や管理の方法、様々な箱種・ファイル用品への対応等々、固有の要件に応じたラベルの作製・貼付サービスをご提案しています。自然史標本、美術品や服飾品、モノ資料などには、印刷したラベルと中性紙タグを組み合わせる場合もあり、くるみんで包んだ資料には、くるみんのひもに取り付けることも可能です。このように、整理と検索のしやすさに配慮したラベルのご相談も承ります。
ご要望等ございましたらお気軽にお申し付けください。
◆資料保存用のラベル用紙について
接着剤付きラベル用紙を使う場合は、パーマネントペーパーで作られているか、接着力が長期に持続するか、接着剤が乾いて接着力がなくなりラベルがめくれたりはがれ落ちたりしないか、接着剤がしみ出してきてべたつき、ホコリを付着させ隣接する資料の劣化原因にならないか、こういった点に配慮されたラベル用紙を推奨しています。
弊社の「中性ラベル」は上記の推奨要件を満たしています。用紙には中性紙として定評のあるAFプロテクトH(特種東海製紙株式会社製)を、裏糊にはアクリル系エマルジョン樹脂(弊社製)を採用し、長期の安定品質保証のために、ラベル用紙として国内では初めて、ISOのPAT(写真活性度試験=Photographic Activity Test) に合格いたしました。同試験は名称通り、直接的に接した写真画像に対する包材や接着剤の画像への影響度を試験し、包材として合格か否かを見る試験法ですが、これにパスすることは、他の資料への影響度も極めて少ないことを意味します。ただし、資料等へ直接貼るのではなく、弊社等で提供しているアーカイバルボード製資料保存容器向けに限っての品質保証になります。また、プリンタは顔料インクでのインクジェット・プリンタをお勧めします。
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2019年4月17日(水)今日の工房『バインダー内の分類や仕切りに最適なタブ付きインデックスシート』
2016年9月7日(水)今日の工房『保存容器に貼付する中性ラベル』
2010年1月14日(木)今日の工房『中性ラベル用紙で作成した様々なデザインのラベル』
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中性ラベル
2020年1月6日(月)あけましておめでとうございます。
2019年12月26日(木)2019年も残りわずか、今年も大変お世話になりました。
いつも当社ブログをご覧頂き、誠に有難うございます。2019年も残りあとわずかとなりました。年内の営業は12月27日(金)正午まで、年明けは1月6日(月)より営業いたします。
今年1年を振り返ってみますと、ICOM(国際博物館会議)京都大会への初出展をはじめとして、講習会やワークショップなども初めてお声がけ頂いた内容・機関がいくつかあり、新たなご縁の繋がりを感じることができた年でした。また、社員研修もいくつか実施した中で、夏に訪問した「特種東海製紙三島工場」では、アーカイバルボードの製造工程を間近に見て、あらためて、多くの方々の高い技術力と豊富な知識、企業努力によって支えられていることをスタッフ全員が体感できたとても貴重な機会でした。
また、下半期では台風による水損被害に関するご相談が多く、今もお問い合わせが途切れることがありません。当社では各所と連携し、資材提供を通じて微力ながら文化財復旧支援に携わらせて頂いています。復旧にむけて活動されているスタッフ・職員の方々の疲労困憊は計り知れず、ご尽力に敬意を表するとともに1日も早い復旧復興を祈念いたしております。
来年2020年は干支の最初となる子年です。新たな気持ちでチャレンジし、成長を目指し、さらにより良い製品・サービスをみなさまにご提供できるよう、スタッフ一同邁進してまいります。来年も何とぞよろしくお願い申し上げます。
2019年12月11日(水)ポスターや図面をのばして収納。保管や運搬にも便利な「落し蓋」つき被せ箱。
ポスターや図面などを広げて保管したい場合、簡単なやり方としては、板に挟んで紐などで固定する方法が考えられます。
ただ、この方法で縦置きするにはしっかり固定しなければならないので養生の手間もかかり、枚数が多く厚みが出る場合は固定するのも難しくなります。
こうした時、弊社では「落し蓋」をつけて収納する方法をお奨めしています。この落し蓋は、箱の内寸法に合わせてボードの4辺を折り曲げ立ち上がりを設けた内蓋のような形状で、箱の側面につっぱるようにはまり、収納した資料を上から固定します。このような仕掛けでは落し蓋のはまり具合が肝になりますが、アーカイバルボードは通常の段ボールより硬く成形がしっかりできるため、ぴったりと箱に沿う落し蓋を作ることができます。
落し蓋がしっかりとはまることにより、湿気による波状のうねりや折れ・擦れを防いだり、若干カールした資料もある程度安定させ伸ばしながら保管できます。また、縦にしても中身が動かないため、何枚ものポスターを平判のまま持ち運びたいといったお客様にもお使いいただいています。
2019年12月6日(金)オリジナルの背表紙を生かして修理するための事前処置
革装丁本の背表紙は大気や光にさらされていることが多いため、よりレッドロットが進み亀裂や剥落が著しい状態になっているものが見られます。これらの革装丁本に対して、背表紙にある箔押しのタイトルや装飾を出来るだけ生かして修理を行いたい、というご相談をいただきます。
背ごしらえをし直す、表紙を再接合するといった構造的な修理を行うために、一時的に背表紙を取り外す場合がありますが、劣化した革は大変脆くなっているため、崩さずに現状を維持したまま取り外せるよう、あらかじめ養生の処置を行います。まず、革装部分には前処置としてリタンニング処置[※1]を行います。その後、でんぷん糊で和紙を貼って、ひび割れた表面を仮止めし養生します。乾燥した後、養生の和紙を支えに箔押しの状態を確認しながら、隙間にスパチュラを差し込んで取り外していきます。構造的な修理が完了した後は、背表紙を貼り戻し、養生の和紙はイソプロパノール水溶液で湿りを入れて取り除きます。欠失部分は染色した和紙で補い、オリジナルの背表紙を最大限生かして、見た目にもなじむように仕上げます。
レッドロットが著しく、オリジナルの背表紙が生かせない場合には、新規の背表紙を作成する修理も行います。
[※1]リタンニング処置: アルミニウムトリイソプロピレート、ベンジン、エチルアセテートを混合したリタンニング(re-tanning)溶液を塗布する処置。レッドロット現象が起きている革装部分に水分が入ると、黒く変色したり表面が硬く変質する。この前処置を行うことで、糊や水分のある材料を革装部分に使用してもシミや変色が残りにくくなる。
【関連リンク】革装丁本への保存修復処置事例
2019年11月22日(金)【写真油絵】を安全に保管する方法についてお客様よりご相談を受け専用保存箱を作成した。
ご相談を受けた写真油絵には、経年劣化の影響と見られる写真乳剤面の剥離が全体に広がっており、微量の風圧でさらに剥離が広がる恐れがあるほど深刻な状態だった。この剥離の進行を食い止めつつ、将来起こりうる劣化を視野に入れ、作品を取り巻く環境を整える予防的保存措置のため専用保存箱を試作し、その検証・評価を行った。
【写真油絵とは?】
写真油絵は白黒写真を油絵具で着色した絵画で、明治中期にごく一部の写真撮影技師によって製作されていた。その技法は写真印画紙から台紙の紙を削り取り、画像が写された乳剤面の薄い層に裏側から油絵具で着彩する繊細で高い技術を必要とし、継承者が途絶え失われてしまったために現存する作品数は非常に限られている。
保存箱の試作を行うにあたり、作品が保管される環境や条件に応じて、以下の2点を考慮しながら、個別かつ適切に対応することが必要だった。
・環境の温湿度変化による写真乳剤面の剥離、酸化性雰囲気による劣化の進行を防止すること。
・作品の出し入れの際に写真画像が擦れることなく、また、収納品への風圧防止策を施すこと。
保存箱の形状は、作品を物理的に安定した状態で平置き保管でき、強度面でより適しているシェル型とした。また、環境の温湿度変化による写真乳剤面の剥離の進行を防ぐため、保存箱の素材にはプルーフ加工のアーカイバルボードを使用し、身と蓋の内側に汚染ガス吸着シートGasQ®と3Fボードを貼り込む新きりなみ仕様にした。新きりなみ仕様は、写真材料に有害な汚染ガスを取り除き空気質を整えるためのガス吸着機能とともに、箱内の相対湿度を安定させる緩衝性を持ち、室内よりその変動幅を抑え、環境要因からくる収納物の劣化を最大限に抑制できる。
保存箱の構造は、破損や擦りキズ等の物理的損傷から作品を保護すると同時に、開閉の際に生じる風圧の影響を受けないような仕組みを検討した。
まず、蓋の開閉時に箱内部にどのように風が吹き込むかを検証した。ダミーの絵画表面に小さく断裁した薄葉紙を等間隔に並べ、箱の開閉を行った際の薄葉紙の動きを観察した。すると開閉で生じる僅かな風圧で薄葉紙が舞い上がったため、やはり風圧から絵画表面を保護する工夫が必要だと判断した。
耐風圧の仕組みとして、アクリル製の中蓋を箱内に設置する構造を検討した。中蓋は横から差し込み、静電気の影響がないよう絵画表面から十分な間隔を設けた。絵画表面の状態を目視しながら開閉でき、作品の出し入れも容易に行える。再度、薄葉紙を並べ風圧の影響を検証したところ、良好な結果を得た。
劣化した写真油絵に対して、ストレスを与えることなく安全に保管できる専用保存箱の設計仕様が固まった。
【関連リンク】
◆シェル型保存箱の用途例
2017年8月17日(水) 厚くて重い大型洋装本にはブックシュー構造のシェル型保存箱をお勧めします。
◆新きりなみ仕様の保存箱の用途例
2019年5月15日(水)NPOゲーム保存協会様からのご依頼でフロッピーディスクを長期保管するための専用容器を作成した。
2019年11月12日(火)第21回図書館総合展がパシフィコ横浜で開催されています。期間は11月14日(木)まで。
資料保存器材は2019年11月12日(火)~11月14日(木)の期間中、パシフィコ横浜で開催される第21回図書館総合展にブースを出展しています。
今年も、国産の保護紙(長期保存用中性紙)を製造・販売する(株)TTトレーディング社と並びで出展し、「素材と品質~素材からアーカイバル製品」まで流れの中で展示をご覧いただけるブースとなっております。
アーカイバル容器部門では、ご好評いただいております「ドライクリーニング・ボックス」、無酸素パック「Moldenybeモルデナイベ®」、汚染ガス吸着シート「GasQガスキュウ®」、「新薄葉紙Qluminくるみん™」などの機能性保存用品のほか、さまざまな形状や用途のアーカイバル容器も多数出品し、導入事例も踏まえて紹介しております。また、開催期間中は修理部門のスタッフも常駐しております。資料修理に関する質問はもちろん、保存方法の悩み、費用や期間など、ぜひお持ちの資料の画像をご持参いただき、お気軽にご相談ください。
皆様のご来場をお待ちしております。
■ 株式会社資料保存器材 出展ブースNo.40
【第21回図書館総合展 開催概要】
会期:2019年11月12日(火)~11月14日(木)
会場:パシフィコ横浜 ホールD、アネックスほか
★入場無料、図書館・情報流通に関心をお持ちの方はどなたでもご来場いただけます。来場者情報登録のために「招待券」(企画一覧・フォーラム時間割表を兼ねる)を発行しております。「招待券」は会場入口においてありますので、手ぶらで来ていただいても大丈夫です。
2019年11月7日(木)東京造形大学附属美術館様の所蔵品、絵本作家小野かおるの立体作品の保存箱を製作しました
作品はレリーフがほどこされた円盤の上にオブジェがのる構造で、円盤にはオブジェをはめ込み固定するための金属製の支柱がついています。円盤は木製の土台に樹脂や金属粉などを複合的に組み合わせて成形されたもので、重量が10kg程あります。オブジェは円盤から外され薄葉紙で養生・梱包し別置保管されていました。
現状は展覧会後の輸送梱包のまま、エアキャップと茶段ボール製に入れられ荷造り用の梱包バンドで括られている状態で、作品をアーカイバル容器へ入れ替え、重量のある作品の円盤を縦置きで保管したいというご要望のもと保存箱の仕様を検討しました。
保存箱は、台差し箱をベースにマジックテープ留め具をつけた縦置きでも蓋が開かないような構造にしました。箱内部には、文化財保護用のフォーム材 AZOTE® (プラスタゾート)を円盤の形に沿うようカットし、前後左右の要所で作品を固定できるように設置。縦置きしても作品の重量を分散できるような仕組みです。また、作品を取り出しやすいよう手を入れられる空間もつくっています。さらに内蓋には、プラスタゾートで作成したスペーサーに穴を開け、蓋を閉める際に円盤を押さえつつ金属突起部分が干渉しないよう工夫しました。円盤を内蓋でしっかり押さえられるので、振動により箱の中で動くこともなく、繊細なレリーフを守ります。
重さがあり、平置きで重ねて収納することが難しい作品も、縦置きできる構造にしたことで、収蔵庫に効率よく収納できるようになりました。
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