今日の工房 

週替わりの工房風景をご覧ください。毎日こんな仕事をしています。

2022年5月13日(金)戦中掛図資料の修理

東京都生活文化スポーツ局文化振興部様より、掛図「国民防空図譜」修理のご依頼を承りました。

 

掛図は明治以降、主に学校で使用する視覚教材として普及した形態で、教育掛図とも呼ばれます。絵図が印刷されている厚口の紙を重ね、上部を木材で挟み、金属製の挟み具や釘、鋲などで紙束と合体し、カレンダーのように黒板や壁に吊り下げて使用していました。図書というより教具・備品としての性質があり、加えて、大判のため保管しにくい・扱いにくいことから傷みやすい傾向があります。

 

今回修理を行った「国民防空図譜」は学校教材ではありませんが、昭和18年の戦時下に発行され、空襲による被害を抑えるための防火、消防活動や灯火管制、救護措置などについて、民衆に対して分かりやすいよう多色刷りの鮮やかな色彩で解説されています。これら本紙37枚からなる掛図は、掛け具の木材からは既に外され、上辺は接着剤で貼り合わせてあり、本紙周縁に細かい破損や汚れが見受けられる状態でした。まずは掛図を一枚ずつに分離し、破損箇所の修補、酸性物質による劣化を予防する脱酸性化処置を行いました。さらに、このあと資料は分離したままの状態で保存されるため、取り扱い時の保護資材としてアーカイバル・クリアホルダーへ収納しました。

 

この掛図は今年3月に開催された「東京空襲資料展 池袋芸術劇場会場」にて実物展示されました。会場では、修理工程を掲載した解説パネルも一緒に展示していただきました。

 

 

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2022年4月15日(金)貴重な書籍や資料の展示に使う展示台をアーカイバルボードで製作しました。

今回180点にも上る展示台を作製するにあたり、書籍一点一点の特徴に合わせて、文字や挿絵が鑑賞しやすいよう、ご担当者様との綿密な打ち合せを行いました。

 

書籍ごとに展示台の左右の大きさや傾斜角度、展示台にかかる荷重バランスも変わるため、強度が必要な箇所には補強を入れたり、重く分厚い書籍の場合には本の背を支える背当てを組み込んだり、コンパクトな構造ですが開いた状態の書籍をしっかりと支えかつ開いたページを鑑賞しやすいつくりになっています。また、該当ページをきれいに開きたい場合は、傾斜面の裏にポリエステル製のテープを通して資料の端を抑えることもできます。

 

資料を展示する際に、より良く見せたい、また展示品に変化をつけたいと思うあまり、書籍の背やページが湾曲したり、無理な力がかかり全体がゆがんだ状態になったり、負担のかかる展示方法をとることがあります。また、本は綴じの構造や装丁形式そのものが破損の原因になることもあるので、それぞれの装丁形式の特徴やストレスポイントを考慮しながら展示台を設計しました。

 

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・2009年09月10日(木)本の閲覧や展示のために使われる書見台 

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2022年3月29日(火)年度末、たくさんのご依頼をいただきありがとうございました。

桜が咲く季節になり、ようやく春めいてきました。おかげさまで、例年と同様に、弊社は繁忙期を迎えております。年度末業務の締め括りで慌ただしい日々が続き、スタッフはフル回転で仕事に取り組んでいます。

 

完成した保存容器、修理の終わった資料は、お出しする書類の最終確認後、順次お客様の元へ発送、ご納品に伺っております。

 

新年度の4月以降もどうぞよろしくお願いいたします。

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2022年2月28日(月)長期保存文書約200箱の殺虫・殺卵とカビの不活性化、クリーニング処置 事例紹介

日常的には使用しないものの残しておく必要がある大量の重要な長期保存文書があり、段ボール箱に入った状態でコンクリート壁・床の倉庫に保管されていました。段ボール箱は文書が重いために変形、破損しているものもあり、中の文書は表紙や小口への塵芥の堆積、虫の死骸や、卵、巣、カビが発生した痕跡が見受けられました。こうした資料は、利用の際に手を介して表面に堆積した汚れを本紙の内側に広げてしまったり、飛散した塵芥やカビによる健康への影響があるだけでなく、資料の移動に伴い付着していた虫やカビなどを別の場所に持ち込んでしまう恐れがあります。これら文書のうち、約200箱の目録化と保存倉庫への移動を行うにあたり、事前にクリーニングと無酸素処置による殺虫・殺卵、カビの不活性化処置を行いました。

 

資料は、飛散を防止するためのドライクリーニング・ボックスやHEPAフィルター付きの掃除機を使い、1点ずつ表紙や小口、段ボール箱を吸引し、資料の素材に応じて消毒用エタノールを噴霧したクリーニングクロスで表面のふき取りを行いました。さらに、本紙の点検を行い、汚れの著しい箇所をクリーニングしました。
今回の事例では、運び出しまで引き続き倉庫に保管されるため、クリーニング後に段ボール箱ごと無酸素パック「モルデナイベ」に収納し、3週間以上無酸素状態にすることで完全な殺虫・殺卵、カビの不活性化処置を行い、搬出までその状態を維持するようにしました。対象の文書には薬剤に敏感な青焼き図面が多数含まれていましたが、無酸素パック「モルデナイベ」による処置は薬剤を用いないため、こうした多様な素材の紙を含む文書類にも区別なく使用することができ、文書1冊、1箱からの処置も可能です。

 

 

【関連情報】
資料に付着した汚れやカビのドライ・クリーニング
東京学芸大学附属図書館様 耐震改修工事に伴う、貴重書のモルデナイベ収納、および資料・書棚のクリーニング

 

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2019年6月19日(水)共立女子大学図書館様の貴重書1900点のカビ被害のクリーニングから保存容器収納まで。

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2022年2月18日(金)早稲田大学中央図書館様での組み立て式棚はめ込み箱の設置事例。

早稲田大学中央図書館は全体で27,705平方メートルを有し、収蔵可能規模は400万冊にのぼります。すべての図書は一部の重要書をのぞき利用者がじかに手にとってみることができる開架式書架に配架されています。この他に、閲覧個室、展示室、AVホール、マイクロ資料閲覧室など、多彩な利用者のニーズにこたえる施設が準備されています。
早稲田大学中央図書館ホームページより抜粋https://www.waseda.jp/library/libraries/central/about/

 

今回、図書館蔵書の未製本雑誌(特殊コレクション)約9,000冊を収納するための組み立て式棚はめ込み箱の製作と設置作業をご依頼いただき、雑誌・新聞が配架されているバックナンバー書庫の棚50段に100箱を設置しました。棚はめ込み箱の前蓋には書誌情報カードを差し込むカードホルダーRを取り付けています。

 

この度の事例紹介にあたり、 早稲田大学中央図書館様より掲載のご協力をいただきました。心よりお礼申し上げます。

 

 

【関連商品】
組み立て式棚はめ込み箱
カードホルダーR

 

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2008年10月30日 新聞合冊製本の保存事例 ―読売新聞社様の導入事例―
2009年07月21日 東京国立博物館における両開き棚はめ込み式保存箱
2012年07月20日 東京大学地震研究所図書室様におけるトレー付き倹飩式棚はめ込み箱の導入事例

 

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2021年2月15日(月)山階鳥類研究所様のご依頼で棚はめ込み式保存箱を製作しました。

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2022年2月1日(火)和装本の表紙に使われている再生紙

修理でお預かりする和装本の表紙を見ていると、表紙の紙には青色や黄色、栗皮色などの染紙が使われていたり、植物文様や刷毛目、卍繋ぎといった文様が印刷、空押しされているなど意匠が凝らされているものをよく見ますが、芯材の多くは灰色で厚さにもムラがあり、藁や紙片、髪の毛などが混じっていることが肉眼でも確認できます。芯材に使用されているこのような紙は古紙を再生した「漉返紙」と呼ばれるもので、墨書きの反故紙を原料として漉いているため、紙の色が全体的に灰色をしています。漉返紙が作られていた地名をとって「浅草紙」や「湊紙」、「西洞院紙」などとも呼ばれ、明治以降も安価な下級紙として浸透していたようです。手元にあった明治時代の和装本のサンプル(『明治新刻 易経 坤』、明治15年)の表紙の芯材にも髪の毛や糸くずが見られました。

 

芯材は通常見返しが貼られているため隠れている部分ですが、修理を通して、古くから製紙原料として古紙を再利用してきた様子や当時の文化などをうかがい知ることができます。

 

【参考文献】
小川剛生・中野真麻理編、『表紙文様集成 調査研究報告 25号別冊』、国文学研究資料館調査研究事業部、2004

 

 

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2022年1月21日(金)「文書資料の整理・保存に欠かせない収納容器を考えるー 」

古文書と新聞用の組み立て式保存箱を試作しながら検討を行っています。
従来品の中性紙製もんじょ箱は容積が大きく、古文書や新聞を大量に収納できることがメリットですが、重量がかさむと持ち方によっては持ち手部分が破けてしまったり、通い箱のように何度もくり返し使用すると裂けたりすることがありました。また、書架の棚サイズに合わないことから、もんじょ箱に収納した状態で書庫の床や廊下に直接置かれて埃が積もったり、積み重ねた状態で環境が安定しない場所に長期間置いたことで、箱が潰れて資料が損傷してしまうなどの状況も多々見受けられました。

 

大量収納できる点とその価格から多くの支持をいただいているベストセラーの箱ですので、新しい視点で従来品を見直し、組み立てやすさや使用感を一段と改善することを目標に試作を続けています。

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2021年12月24日(金)本年もお世話になりました。

早いもので、2021年も残すところあとわずかとなりました。本年も多くのお客様からのご愛顧を賜り、心より御礼申し上げます。

 

師走という名の通り、慌ただしい日々が続いていますが、年末の仕事納めに向けて奮闘しています。また、新年を迎える準備も着々と進行中です。

 

今年も1年間、弊社ブログをご覧いただき、ありがとうございました。来年も資料保存に関する私どもの取り組みの様子を発信してまいりますので、ご覧いただければ幸いです。

 

どうかみなさま、よいお年をお迎えください。

 

年内(2021年)は12月27日(月)17時まで営業、
新年(2022年)は1月4日(火)より通常営業いたします。

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2021年12月17日(金)汚染ガス吸着シートGasQ®ガスキュウの保管に便利なガスバリア袋

汚染ガス吸着シートGasQ®ガスキュウのロール品を購入されたお客様よりその保管方法をご相談いただくことがあります。ご相談の理由は、保管場所に問題がある、茶段ボールでの梱包は避けたい、既存の梱包材を再利用できなくなってしまった、密封してガス吸着性能を維持したい、汚れやホコリから守りたい等々、空気に触れることがないように状態良く保管できる「密封袋」が欲しいという声もありますので、ロール品専用の保管袋として使うガスバリア袋をあわせてご案内しています。

 

この保管袋はMoldenybe®モルデナイベの大型サイズ「内寸:310×幅1,360ミリ」を転用したもので、GasQ®ガスキュウのロール品を収納するのに最適なサイズです。長辺開口部がスライドチャック式で使い勝手が良く、保存性にも優れています。

 

モルデナイベのガスバリア袋は空気と液体を通さない高いバリア性能を持つので、大気中の汚染物質、汚染ガス、外気からの湿気を遮断します。袋内に入れるシリカゲルや吸湿剤の吸湿効果を長く持続させることもでき、これらと組み合わせて文化財修復で使用する和紙や裂、不織布シートなどの素材を適切に保管するための袋としても活用されています。

 

GasQロール品専用保管袋の価格:1枚 4,500円(別途消費税10%・梱包輸送費)

 

【関連商品】
無酸素パックMoldenybe®モルデナイベ 
汚染ガス吸着シートGasQ®ガスキュウ 

 

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・2016年8月3日(水) 無酸素パック「モルデナイベ」は工房でも加湿や修理用の材料の保管などに活用しています。

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2021年11月26日(金)本紙の補修に使われる粘着テープ

紙資料の修理に関するご相談の中でも特に多いのが、粘着テープによる本紙の損傷です。補強としての役割を果たしている間はまだ良いのですが、粘着剤が変色して紙に色が移ったり、テープの縁からベタつきがはみ出て汚れが溜まったり、他の資料に付着して破損を引き起こすなど、これらはそこまで年数が経たなくとも簡単に起きてしまう劣化症状です。

 

粘着テープを除去する際、テープの基材と粘着剤の種類によって処置方法と使用する有機溶剤を選択しますが、特にメンディングテープや透明度の高いテープなど、見た目で種類を判別できることはほとんどありません。しかし、一度貼ってしまった粘着テープを剥がすことは非常に難しく、資料を傷めないよう安全な方法で処置を進めるためにも、できるだけテープの性質を把握する必要があります。

 

そこで、事前調査の際に紫外線照射観察を行い、テープの蛍光反応の有無を確かめます。さらに、弊社内に保管している粘着テープのシミュレーション・サンプルと照らし合わせて、基材と粘着剤の種類を予想し、処置方法の見当をつけています。視覚的に分かりやすいので、例えば一つの紙面に数種類のテープが使われている場合なども見やすく、また、それぞれに合った除去の方法を的確に選択することができます。実際には資料形態、紙の種類、書写材料、劣化状態などを考慮すると、予定していた処置を必ず実施できるわけではありませんが、指標の一つとして参考にしています。

 

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・2015年10月28日(水) 13年前に脱酸性化処置した資料はいま、どうなっているか?

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2021年11月11日(木)アーカイバルボードで作品展示用の斜台を製作しました。

美術館・博物館の展示ケース内で使われる作品置台や展示台は、木製の下地材の上にクロスを貼ったものが多く、用いている材料から発生する微粒子や揮発性ガスが文化財を傷めることがわかっています。また、展示ケースは温湿度の安定や大気汚染物質等の流入を防ぐために高気密設計となっており、これはー方で、展示物に影響を与えるガスの残留と改善の難しさの要因にもなっています。

 

こうした汚染ガスは、枯らし換気等による軽減、展示ケースにも使用可能なガス吸着材・ガス吸着シートを使用した、対症療法的な対応が行われていますが、確実な効果が必ずしも担保されるものではありません。そのため、展示ケースの内装材、展示台の素材には、化学物質含有量の低い素材を選び、また十分な枯らしをおこなったうえで、施工、制作することが望ましいとされています。

 

今回製作した展示台に使用した材料は、資料に直接触れても影響の出ない素材でPhotographic Activity Tests(PAT):ISO18916:2007 写真保存用包材のための写真活性度試験に合格したものを使用しています。アーカイバルボードの断面が露出しない作りで正面から見た時の鑑賞の妨げにならない、斜面に対して直角の「かえし」を取り付け展示物に負担がかからないようにする、内部を補強した堅牢な作りで大きな展示台でも安定して展示物を載せられるなど、デザイン面でも構造面でも工夫しました。アーカイバルボードを使用しているためオフガスや汚染物質の影響はなく、また、展示する資料の大きさや形態に合わせて、斜台角度や高さを自由設計できる点もメリットの一つです。

 

 

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2021年10月29日(金)慶應義塾大学三田メディアセンター様所蔵「A.N.L. Munby旧蔵 書字の歴史に関する資料箱」を収納する保存容器を作成しました。

歴史的な資料を数多く所蔵している慶應義塾大学三田メディアセンター(慶應義塾図書館)では、その特性を生かし、多岐にわたるテーマでの展示が随時企画されています。今年4月には、(西洋)文字景―慶應義塾図書館所蔵西洋貴重書にみる書体と活字とのタイトルで、様々な時代の貴重な手書き写本や活版印刷本、特殊コレクションが展示されました。現在この展示会は終了していますが、KeMCo(慶應義塾ミュージアム・コモンズ)360 VIEWで「(西洋)文字景」のデジタル展示がご覧いただけます。

 

 

 

今回、三田メディアセンター様よりご依頼いただき、本展示会で展示された「A.N.L. Munby旧蔵 書字の歴史に関する資料箱」の保存容器を作成しました。

 

A.N.L. Munby旧蔵 書字の歴史に関する資料箱」について Keio Object Hub

 

資料箱の蓋を開けると木製の引き出しが3つ積み重ねられており、各引き出しには様々な形態、素材でできた資料が仕切り板で区切られた部屋に納められていました。なかには額入りの手書き写本やガラス板で挟まれたパピルス文書も収納されていました。これらの引き出しや仕切り板は、経年劣化で所々に傷みがみられ緩衝材なども劣化が進み変質していました。そのため、資料を個別に収納するための仕切り付き保存箱と、資料箱本体を収納する箱を作成しました。額、ガラス板は蓋付きのシンクに収納しました。緩衝材には新薄葉紙Qluminくるみんと文化財保護用フォーム材のプラスタゾートを使用しています。

 

本事例の掲載にあたり、慶應義塾大学三田メディアセンタースペシャルコレクション担当の倉持隆様、竹内美樹様に多大なるご協力をいただきました。誠にありがとうございました。

 

▼慶應義塾大学三田メディアセンターのスペシャルコレクション担当では、職員と利用者に対して、閲覧前に手を洗い清潔な手で資料を扱うよう促しています。また、「貴重書を閲覧するにあたって」(PDF) では、取扱いに際し「資料は素手で取り扱い、手袋等は使用しないでください。また資料は閲覧机の上に置いたままご覧ください。」と明記しています。貴重で繊細な資料ほど、手から伝わる触感が材料の脆弱性を理解するために必要だからです。資料の適切な取扱いについて利用案内等に明記することは資料の破損・汚損の予防につながります。

 

【参考文献】
『スタッフのチカラ』

・2008年09月19日「貴重書は白手袋を着けて」という誤解 蜂谷伊代訳

・2011年04月05日 洋装貴重書の取扱い ブリティッシュ・コロンビア大学図書館貴重書・特別資料室の指針 高田かおる訳

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2021年10月11日(月)早稲田大学會津八一記念博物館様より、革装丁本の修理を承りました。

會津八一記念博物館は早稲田大学文学部教授を務めた美術史家の會津八一(あいづやいち)を記念して、1998年(平成10年)に早稲田大学2号館(旧・図書館)内に設置されました。収蔵品は會津八一コレクションを中心に、早稲田ゆかりの美術品や研究資料、東洋美術、考古・民族資料、日本近現代絵画、近世絵画、考古資料など多岐にわたり、現在約2万点収蔵し、毎年4、5回開催する企画展示やコレクション展示を通して学内外に広く公開しています。 

 

 

早稲田大学會津八一記念博物館ホームページhttps://www.waseda.jp/culture/aizu-museum/

 

お預かりした革装丁本は14点。国内では収蔵されている件数が極めて少ない貴重資料であるため、データベース化に伴い、修理を検討されたそうです。資料本体には革のレッドロット化、表裏表紙・背表紙の外れ、綴じ糸の外れといった劣化損傷が見られました。また、本紙には厚手のコート紙に刷られた図版が多数含まれており、今後の閲覧による原資料の損傷を避けるため、修理とともにデジタル化を行うことになりました。

 

デジタル化の前処置として、構造的な劣化が見られる箇所や損傷部に対し、本体背の仮固めや革の安定化処置などの補強を施し安全に撮影できるようにしました。デジタル化後は、元の装丁・表装材を利用した修理製本を行いました。 

 

デジタル化撮影前に行った資料への処置と修理製本までの一連の流れ 
①ドライ・クリーニング:クリーナーやクロスを用いて表面のチリや埃を除去した
②レッドロット化した革への処置:リタンニングを行い安定化させた 
③綴じ直し:旧背ごしらえを除去したのち、綴じが外れた箇所を麻糸で綴じ直した
④背ごしらえ直し:背に和紙や中性紙を貼り重ねて補強した。撮影前に背を仮固めすることで本体が安定し撮影時の本への負担が減る。この背ごしらえは元の背表紙を貼りもどすための土台にもなる。
〜デジタル化のため資料をご返却〜 
⑤デジタル撮影:学内設備でのデジタル撮影
〜撮影後、資料を再度お預かり〜 
⑥表紙と本体の接合:タケッティング法で表紙と本体を繋ぎ、背ごしらえのハネを表紙の見返しに貼り込みヒンジ部の補強とした
⑦背表紙貼り戻し:元の背表紙を背に貼り戻した
⑧背表紙補填:背表紙欠損部分を和紙や中性紙で補填した
⑨背表紙の補強:元の背表紙表面を補強するため染色した極薄の和紙を貼った
⑩保革油塗布:革装部分へ保革油を塗布し馴染ませた

 

修理を終えた資料は會津八一記念博物館2階グランドギャラリーで開催中の企画展で展示されています。 
▼企画展『山内清男コレクション受贈記念 山内清男の考古学』
https://www.waseda.jp/culture/aizu-museum/news/2021/06/24/3492/ 

 

この度の事例紹介にあたり、 早稲田大学會津八一記念博物館様より掲載のご協力をいただきました。誠にありがとうございました。

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2021年9月27日(月)新規のハードカバー表紙をつけて製本し直す

立教大学図書館様より、虫損が著しい学術図書の修理を承りました。
対象資料は1900年代のインドネシアに関する寄贈図書で、元は仮綴じ本[※]であったものをハードカバー製本したものと見受けられます。一部の資料は仮綴じ本のままの状態でした。

 

資料の本文紙自体には虫損による大きな損傷は少ないものの、内側にまで塵芥や虫糞、虫の死骸などが見られました。ハードカバー資料の表紙・背表紙は特に虫損が著しく、表紙の芯材が空洞化して脆くなり、本体から外れていました。これらの表紙は強度の低下と虫糞による汚損により、再利用して修理を行うことは困難な状態でした。ソフトカバーの表紙をつけたのみの簡易な製本形態である仮綴じ本は、見開きにより背の亀裂や糸切れが起きる恐れがありました。
対象資料のうち、冊子1点と近年に図書館製本されたとみられる図書館製本1点を除くこれら11点の資料に対して、今後の配架と利用に耐えうるよう、新規のハードカバー表紙を作成して製本し直す処置を行いました。

 

表紙・背表紙は取り外し、本紙1枚ずつを刷毛で払いドライ・クリーニングして塵芥や虫糞を除去しました。その後、本体の背を背ごしらえし、新たな表紙芯材としてピュアマットを接合しました。見返し紙に中性紙(ピュアガード)を貼り、布クロスで表装し、背表紙にはタイトルを印字して貼付しました。仮綴じ本は、背のラウンディング(丸み出し)、バッキング(耳だし)を行って丸背にこしらえ直し、同様にハードカバ―の表紙をつけて製本し直しました。
本文紙をしっかりと保護し支える表紙をつけ製本したことで、不安なく自立して配架でき、支障なく利用・閲覧できるようになりました。

 

この度の事例紹介にあたり、 立教大学図書館様より掲載のご協力をいただきました。誠にありがとうございました。

 

[※]仮綴じ本:本文紙を糸で綴じ、簡易な表紙を貼り付けたもの。購入後に所有者が正式に製本し直すことを想定した形態。

 

 

【関連情報】
『スタッフのチカラ』
・2015年11月5日立教大学図書館様所蔵 洋装貴重書に対する保存修復手当て ―3年間をかけて段階的に洋装本500点を―
・2015年11月24日学習院大学図書館様所蔵「華族会館寄贈図書」資料に対する保存修復処置事例

『今日の工房』
・2021年4月23日(金)和装本にみられる虫害 

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2021年9月3日(金)資料のデジタル化にともなう事前処置について

資料のデジタル化は資料サイズ、状態に応じて撮影方法を選択しますが、中には劣化が進み取り扱いしづらく撮影時に損傷する恐れのあるものや撮影に不向きな形態の資料があります。こうした資料はデジタル化作業を行う前に撮影に耐え得るレベルまでの必要最低限の安定化処置を行なっています。

 

例えば、巻き癖や折れ癖のついたポスターや図面は無理に広げると破れや裂けなどの破損が生じてしまいます。また、折れやシワによって文字や画像が不鮮明になったり、あるべき情報が写っていないといったことが起こるためフラットニングによって本紙を伸展させます。折り目に沿って大きく切れているものは和紙で修補します。

 

和装本や簿冊、合冊製本された雑誌や新聞に対して行う事前処置として特に多いのが見開き具合を改善するための解体処置です。綴じが内側に入り込んで文字が隠れてしまっているものや厚みがあり開きが悪く撮影の際にノド元の文字がゆがんでしまうもの、本紙が折れたままの状態や封筒に手紙が入ったままの状態で綴じられた資料は綴じを外して一枚ずつの状態になるよう解体します。

 

資料の状態に応じた事前処置は画像データの品質を向上させるとともに撮影による資料への物理的な負担を減らすことに繋がります。 

 

【関連記事】
『今日の工房』

・2016年3月30日(水) デジタル化のためなど、お客様の館内へ出向しての作業をお引き受けすることが増えました。

・ 2019年11月1日(金)松竹大谷図書館様が所蔵する映画スクラップ帳のデジタル化に伴う解体・簡易補修を行いました。

・2020年11月27日(金)マイクロ化のための合冊製本された新聞資料の解体

・2020年12月10日(木)釘で製本されている資料の解体

 

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2021年8月20日(金)長さ4m超の水引幕を平置き保管するための、大型保存箱

神社の祭礼の出し物として使われる「笠鉾」の胴体部に巻く水引幕を収納する保存箱の製作依頼を受けました。水引幕は豪華な刺繍が施された飾り付け用の幕で、広げると全長が4mを超える物もあります。幕の刺繍や布地の保護のため、なるべく折り畳まずに平置きで保管ができるよう幅1.1m×長さ4.3mの大型の保存箱を製作することになりました。

 

保存箱の身は持ち運びの際にたわみや歪みが起きないよう壁を6重に積層し補強をしています。また納品先での搬入通路を通るためには荷物の長さを3m程度に収める必要があり、保存箱の身を半分に折り畳んだ状態で輸送ができる箱の構造を考案しました。箱の身は収蔵庫内へ搬入後畳んだ状態から開いて箱の形に戻し、箱中央(折り目部分)の壁の切断箇所を固定するため、アルミ板の留め具を壁に埋め込みました。

 

蓋は取り外しを簡便にするため乗せ蓋式とし、全体を3分割にして、それぞれの蓋裏に四方桟を取り付けました。箱を積み重ねて保管するため、上からの荷重で蓋がたわまないように蓋の四方と中央にH型のアルミハカマを組み込み補強しました。水引幕を収納した箱は箱紐で結び蓋が不用意に外れないよう固定しました。

 

 

【関連記事】
『今日の工房』2018年12月26日(水)全長4メートルの大型保存箱を製作しました。

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2021年8月2日(月)2021年夏の手拭いができました。

お客様へお届けする暑中お見舞いの手拭いが完成しました。今年はモチーフと手拭いの配色にご注目いただけたら幸いです。

 

米国の色見本会社PANTON(パントン)社では毎年パントン・カラー・オブ・ザ・イヤーを実施しています。パントン色彩研究所が世界のトレンドを分析して「今年の色」を選出するプロジェクトです。基本は単色ですが、2021年はUltimate Gray(アルティメット・グレイ) とIlluminating(イルミネイティング)の2色の組み合わせが選ばれました。グレイとイエローの配色について、パントンはこう解説しています。

 

 

「永続的なUltimate Grayと明るいイエローのIlluminatingの組み合わせは、不屈の精神に支えられたポジティブなメッセージを表現しています。実用的でしっかりしていると同時に、暖かみがあり楽観的なこのカラー・コンビネーションは、私たちに回復力と希望を与えてくれます。私たちは、励まされ、元気づけられる必要があり、これは人間の精神に不可欠なものです」

 

Ultimate Grayは「永続的でしっかりとした基盤をもたらす、強固で信頼できる要素の象徴」、Illuminatingは「生き生きとした輝きを放つ明るく陽気なイエローで、太陽の力を宿した暖かさを与えるイエロー・シュード」。コロナ禍における願いや祈りがこの2色にこめられていることがわかります。

 

このパントンの配色を取り入れ、今夏は、柔らかくすっきりとした色合いのグレイで染色した手拭いに、鮮やかなイエローのパイナップル型の挨拶状を添えました。

 

色に込められたメッセージと共に、みなさまの元へお届けいたします。楽しく使っていただけることを願っております。

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2021年7月19日(月)横浜英和学院様所蔵の卒業アルバムのドライクリーニング、保存容器への収納

横浜英和学院は1880(明治13)年にアメリカの女性宣教師H.G.ブリテンにより横浜山手の居留地に女学校として創立されました。1886(明治19)年には校名を「横浜英和女学校」と改めました。その後、生徒数の増加に伴い、1916(大正5)年に現在地の横浜市蒔田に移転しました。戦争の影響などでの幾度かの校名変更を経て、2014年(平成26年)の中学高等学校と青山学院大学との提携を機に、2016(平成28)年に校名が青山学院横浜英和中学高等学校となり、2018(平成30)年には中高男女共学化となりました。 
▪学院の沿革:横浜英和学院ホームページより抜粋 https://www.yokohama-eiwa.ac.jp/
 
同学院では、横浜英和学院の歴史に関する文書、写真、記念品のほか、卒業生寄贈資料の卒業アルバムを、大切な歴史資料として収集・保存を行っています。今回、2020年の創立140周年記念事業の一環で、1910(明治43)年~2019年(令和元年)までの卒業アルバム約100冊の内、カバーのない約80冊分のドライクリーニングと保存容器への収納を行ないました。これらの卒業アルバムは、スチール製の引き戸付きキャビネットに収納されていましたが、アルバムの外装、特に小口に経年によるチリやほこりの堆積が見られました。 
 
卒業アルバムは作られた時代によって様々な形態があります。1980年代以前の古い卒業アルバムの特徴として、外装に布クロスやビニールレザーが使われていたり、綴じ紐・金具、台紙の厚紙、プリント写真、手書き文書(インク、墨書き)の貼り込みがあるなど、さまざまな材料が複合してつくられていることが挙げられます。構造的に見ると、写真が台紙に貼られていたり、三角コーナーで留められていたりするので、書籍や冊子にくらべ「隙間」が多く、内部にまで細かなチリや埃が入りやすいといった特徴もあります。そのため、クリーニングする際のポイントとして、各ページののど、そして写真の縁や画像面もクリーニングすることをお勧めします。 
 
クリーニング作業では、ブラシノズルを装着したHEPAフィルター付き掃除機とクリーニングクロスを使い、アルバム外装と本体内部のチリやほこりを除去しました。スチール棚は、消毒用エタノールを含ませたペーパータオルで拭き取って清掃しました。 
 
酸性台紙に貼られた写真は、台紙から発生する酸性物質の影響で、画像面の銀鏡化、退色が生じるため、新薄葉紙Qlumin™くるみんで台紙サイズに合わせた間紙を作りました。ページごとに挟むことで酸性台紙の影響から画像面を保護します。 
 
クリーニング処置を行い各頁に間紙を挟んだアルバムは、一点毎に採寸しタトウ式保存箱へ収納しました。保存箱の背に発行年度を印字したラベルを貼付し、キャビネットへ発行年度順に再配架しました。 
 
本事例掲載にあたり、横浜英和学院理事長の伊藤美奈子様に多大なるご協力をいただきました。誠にありがとうございました。 
 
 
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・2021年6月28日(月)野外彫刻展作品をおさめた写真アルバムの修理 

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2021年6月28日(月)野外彫刻展作品をおさめた写真アルバムの修理

野外彫刻といえば、都市景観の向上や地域振興、歴史伝承などを目的に設置された作品や、周辺の自然景観を取り入れた作品、風景のアクセントになるような作品など、様々な場面が思い起こされるのではないかと思います。1980年代以降「パブリックアート」に代表される様に、誰でも気軽に、日常的に鑑賞できる美術作品として確立してきましたが、それよりも以前、1950年代からおよそ20年以上にわたり、一般の人々が鑑賞できるようにという目的で開催された野外彫刻展において、多くの作家達に対して原材料と作品発表の場を提供し、制作活動の支援を行なっていたのが、小野田セメント株式会社(現太平洋セメント株式会社)でした。

 

セメントは一般的に土木・建築構造物の主な材料ですが、その中から彫刻の素材として作家に提供されたのが「白色セメント」でした。1951年、東京都立日比谷公園における第一回野外展示の開催には、まだ戦後間もない時代、心の癒しと回復の祈りが込められ、また、一般の人々は白色セメントの純白さに神聖なイメージを持ち、彫刻作家達を含めた多くの人々が新たな時代への希望・期待のメッセージとして受け取りました。その後1973年まで、会場や趣旨を変えながら小野田セメント協賛による彫刻展が続けられました。

 

今回、太平洋セメント株式会社様より修理をご依頼いただいた資料は、当時の野外彫刻展の展示風景、作家による制作風景、出展作品などを撮影した写真が貼られたアルバムです。写真の褪色は見られるものの状態は良く、何より画像として残る唯一の記録であるとのことで、当時の活動の取組みをうかがい知るためにも大変貴重な企業アーカイブズ資料です。

 

処置はアルバム構造の補強を目的に進められました。損傷状態として、本体から表紙が外れ、ノド元にあたる台紙のつなぎ目が破断しページがバラバラになっている箇所があり、また、外れた表紙と本体を繋げるために、背表紙や内側の見返しに粘着テープやクラフト紙が貼られ、ベタつき、変色、一部粘着力の低下による剥がれが見受けられました。そのため、テープ類の除去、台紙の損傷・破断箇所の修補、表紙と本体の接合を行いました。

 

また、この形態の写真アルバムは、大きく見開いた際に台紙がノド元で切れて破損しやすい構造をしているため、閲覧の際に開きすぎないよう、120°程度の見開きでアルバムを支える書見台を併せて製作しました。

 

事例掲載にあたり、太平洋セメント株式会社の高橋恵子様、ならびに、国立新美術館アソシエイトフェロー坂口英伸様にご協力を得ました。誠にありがとうございました。

 

「白色セメント」:セメントの製造過程で、成分中に含まれる鉄分を少なくした白色のポルトランドセメント。化粧モルタル、タイルの目地詰めなどに用いられる。

 

 

【参考文献】
坂口英伸「戦後日本の野外彫刻展に関する研究 ー小野田セメント株式会社による協賛を読み解く」『NACT Review 国立新美術館研究紀要』第5号、国立新美術館、2018年
坂口英伸「小野田セメント株式会社によるセメント彫刻の設置とメンテナンス活動に関する考察」『屋外彫刻調査保存研究会会報』第6号、屋外彫刻調査保存研究会、2020年

 

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2021年6月18日(金)重量のある額縁に入った絵画を収納する保存箱を製作しました。

絵画作品の額縁は、大きな肖像画作品を飾るために用意された彫刻のような額縁で、総重量が40kgもあります。さらに、前面の保護ガラスの重さが加わり、桁違いの重量がありました。額縁のレリーフは、木地に石膏を塗り成形し金箔で装飾された古典技法で作られており、石膏が剥がれ、突き傷や擦れた跡が随所にみられました。

 

今回、収蔵庫スペースの都合から縦置きに保管する必要があり、箱の仕様設計にあたっては、取り扱い面と荷重に耐えられるだけの十分な強度の確保に配慮した工夫を保存箱に施しました。

 

保存箱の仕様は台差し箱をベースに、額を固定するL字スペーサーを四隅に取り付け、取り外しができるブロック状のスペーサーを側面に組み込みました。各スぺーサーの内側は補強が施されており、頑丈で堅牢なつくりです。スペーサーは作品を支える部材として、また、荷重に対して保存箱の反りやたわみなどの変形も抑える効果もあります。

 

絵画の裏面には展示用の金属ワイヤーが付いており所々が凹凸していたので、箱の潰れ・穴あきを防ぐため、内装に文化財保護用フォーム材のプラスタゾートを一面に施工しました。蓋の内側にも、額縁の表面に沿うように微調整されたプラタゾートを設置し、レリーフに負荷がかからないようにしました。

 

 

 

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