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週替わりの工房風景をご覧ください。毎日こんな仕事をしています。

2017年1月18日(水)修理に欠かせない道具・材料—リーフキャスティング(漉き嵌め)で使用する竹簾

竹簾はリーフキャスティング(漉き填め)を行う際、濡れた紙資料を安全に扱うための支持体としてとても重要な道具。頑丈な作りで壊れることはそうそう無く、長年の使用で糸が緩んでも自分たちで締め直しながら大切に使ってきたが、繁忙期のフル稼働に備えて新調することになった。これらは手作りで材料の竹も選りすぐりのものでできている。ほかにも修理に欠かせない道具や材料はたくさんあり、刷毛、和紙、革、プレス機、断裁機など、修理の現場はいろいろな分野の職人さん達の優れた手の技術に支えられている。

 

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2016年8月24日(水) 虫損がひどい資料へのリーフキャスティング(漉き填め)による修理

和紙基材の資料に見られる代表的な損傷に、シバンムシや紙魚(シミ)などによる虫喰い=虫損がある。ひどいものになると文字の判読はもちろん、丁をめくることも難しい。無理に開けば紙片が絡まって破損したり、島抜けになって文字が欠落してしまったり、そもそも、固着した虫糞によってページがくっついて開かない、ということもよくある。これらを、安心して取り扱えるように修理する。

 

まず、本紙を一丁ずつに解体しドライ・クリーニングする。無理に開いたりせず、島抜けしそうな箇所については、あらかじめ和紙で養生補強して、欠落しないように紙片同士をつないでおいた方が、この後の工程を安全に進めることができる。ドライ・クリーニングは、表面のチリやホコリ、泥よごれやカビを払うだけでなく、こびりついた黒い虫糞を除去することがポイントである。黒い虫糞が残ると、文字が読みづらくなるなど仕上がりを左右するため、除去には時間はかかるが丁寧に行う。

 

そして、サクション(吸い込み)型のリーフキャスティングで、紙の繊維分散液を充填していく。溜め漉きに、流し漉きの動作を組み合わせた独自のキャスターにより、和紙の繊維を絡ませながら欠損部にしっかり埋め込む。紙の厚みや虫損の多さなど、その都度本紙の性質を見て液量を決めるため、一見システマチックな工程に見えても、作業者には経験と、的確で素早い判断が求められる。

2016年7月6日(水) 修理の第一歩はカルテの作成、時間をかけて丁寧に。

修理にとりかかる前に事前調査を行いカルテを作成する。資料の形態(和装本、洋装本、図面、小冊子等)、基材(和紙、パルプ紙、洋紙等)、イメージ材料(墨、顔料、スタンプ、インク等)、資料の劣化状況(破れ、欠損、虫損、カビ、粘着テープ、金属物等)などを観察しカルテに記す。さらに、pHチェックやスポットテストを行うことで、より詳細に資料の性質を把握する。これらの調査結果を受けて、時には想定していた修理方針を修正する場合もあるため、時間はかかるが丁寧に行わねばならない非常に重要な工程である。また、処置に使用した材料(和紙、接着剤、溶剤)や工程、処置後に収納した保存容器の形態、かかった作業時間を記録しておくことで、同じような資料に対して、より適確な処置を施すための判断材料にもなる。さらに処置を行った資料そのものにとっても、将来的にさらに修理や保存対策が必要になった際、重要な情報源となる。

2016年6月29日(水) 明治期の英訳「舌切り雀」の和装本を修理しました。

日本昔話『雀の物語(舌切り雀)』 を海外向けに英訳し出版(明治22年)された本。英文のため左開きではあるが、本紙は袋綴じで角裂が付いていた跡があり、和装本の形態である。本紙の袋内には間紙が挟まれており、共に基材はパルプ紙である。

 

間紙は枯葉のようにパリパリの酸性紙と化し、紙力は残っておらず折り曲げると切れてしまうような状態に劣化している。本紙と比べても茶褐色化が著しい。

 

本来間紙は、薄い本紙を袋綴じする際に、間に一枚紙を入れて綴じ込むことで、薄い紙への印刷の裏抜けを覆い、読みやすくするために用いられる。今回の資料は、本紙はパルプ紙で厚みがあり、今後も裏抜けの心配はないため、処置するにあたり間紙はすべて除去し、損傷箇所の修補をした後、綴じ直した。

2016年6月15日(水) 明治新聞雑誌文庫様所蔵の屏風の下張りに使用されていた新聞への保存修復手当て

東京大学大学院法学政治学研究科附属近代日本法政史料センター 明治新聞雑誌文庫様よりお預かりした屏風の下張り新聞。前回までの作業はこちら。下張りから新聞を取り出したところ、新聞同士が重なる箇所はデンプン糊でしっかりと接着されていることが分かった。これらを安全に分離させるため、一度温水に浸漬してデンプン糊を緩ませてから、1枚ずつ慎重に剥がした。

 

その後、刷毛で溶液をかけ流す方法で洗浄と水性脱酸性化処置を行った。水性処置によって、若干の紙力回復効果は確認されたが、取り扱いが可能なレベルとまではいかないものもあった。そこで一部の資料に対しては、和紙で裏打ち、もしくは両面から挟んで補強を行った。この処置では、全面的に和紙で文字を覆うことになるので、閲覧時の読みにくさを出来るだけ軽減するために、極薄の和紙を採用した(画像2段目左から裏打ち前、裏打ち後)。処置が完了した新聞は保存容器に収納し、明治新聞雑誌文庫様へ無事に返却された。

 

今回、下張りから解体した新聞(明治37年〜39年発行)は総数40枚ほどで、そのうち、修理を行うきっかけとなった「讃岐日日新聞」については23枚見つかった。この新聞は、国内に数日分・数枚の現存しか確認されていないという、大変貴重かつ稀少な資料であり、今後マイクロフィルム化等による複製物の活用が検討されている。

 

関連情報
白石慈『特集:新聞を読む  明治への窓、その向こう』びぶろす71号、2016、国立国会図書館総務部

2016年5月25日(水) 平綴じされた機械パルプ紙製の小冊子やノートのヒンジ部破損の修理

機械パルプ紙製の小冊子や大学ノートなどによく見られる表紙ヒンジ部の損傷。ヒンジ部とは、冊子の表紙の開閉時の「ちょうつがい」になる部分。酸化と酸性劣化により紙の耐折強度が低下している機械パルプ紙の資料の場合、同じ位置で強制的に折られる表紙ヒンジ部は、真っ先に破断などの損傷が起きる。閲覧利用の際や、デジタル化撮影の際、あるいは冊子を開いた状態で展示する際などに、何度か冊子を開け閉めしていると、気が付いたら表紙がヒンジ部で切れてしまった、と言ったご相談もあります。

 

今回取り上げている小冊子は、本体は針金による平綴じで、表紙が本体の綴じ代で糊付けされ、それによりできた綴じ代の内側のヒンジ部に負担が集中して破れが起きている。修理方法の一つとして、表紙のちょうつがいの位置を移動し、冊子の開閉時に表紙が折れない構造にする処置がある。処置工程は、冊子の金属留め具を除去して表紙と本体を解体し、破れている箇所を和紙とでんぷん糊で修補する。表紙以外の本体を糸で綴じ直し、表紙は本体の綴じ代に糊付けしない。(平綴じでなく、かがり綴じでの綴じ直しができるのであれば、かがり綴じの方がさらに負担が少なくて良い。)これにより、表紙のヒンジ部は背表紙の表紙側の角に移った。

 

表紙と本体の接合方法については、資料によって様々であるため、各資料に合わせて十分な接合が確保できるような構造にする。

2016年5月11日(水) 電動ドリルで資料に穴を開ける。

電動ドリルで穴を開ける。目打ちが紙を「押し広げて」穴を開けるのに対し、ドリルは紙を「削り取って」穴を開ける。酸化・酸性紙化により紙力が低下した紙は、目打ちで押し広げて穴を開けると、周囲にひび割れが広がってしまう場合がある。特に小冊子に綴じ穴を開ける処置ではドリルを用いた方が資料にかかる負担が少ない。また、ハードカバーの外れた表紙を本体に再接合する方法のひとつのタケッティング法では、表紙ボードの断面から正確に細い貫通孔を開ける必要がある。このため、径が1㎜以下の刃を装着したペン型のドリルを使う。一見大胆な道具にも思えるが電動ドリルの使用が適している処置は多々あり、修理に欠かせない道具のひとつである。

2016年4月13日(水) ステープルやクリップなどの鉄製の留め具を安全に外すには

金属製の留め具の中でも鉄製のものは、時を経て空気中の酸素と水分に反応することで錆びが発生し、留め具そのものだけでなく、接触する本紙が腐食したり、汚れてしまう。また、糸の代わりにステープルを使うワイヤーソーイング法で綴じられた本のように、本の構造全体が崩壊することもある。

 

これらを安全に除去するために、資料の状態に合わせてマイクロスパチュラ、ニッパー等の道具を使い分ける。市販の文具のリムーバーは、劣化状態によっては、除去する際に無理な負荷がかかり、さらに資料を傷めることがあるので、特に貴重な資料等には用いない方がよい。また、錆びて脆くなった留め具は粉状に崩れることがあるため、本紙を汚さないようにドライ・クリーニングも同時に行う。

 

 

ステープルの除去

 

ステープルの足と本紙の間にマイクロスパチュラを差し込み、ステープルの足を立ち上げて、本紙をひっくり返し、ニッパーで挟んでまっすぐに引き抜く。紙力が低下している場合は、間にポリエステルフィルム等を挟んで本紙を保護しながら作業を行うと、さらに安全である。しかし、中には、酸性紙化が進み脆くなった紙や、薄い紙束等、ステープルの足を立ち上げる際の負担に耐えられない資料もある。そのような場合はステープルの足を資料面ぎりぎりのところでニッパーで切断する方が、手早く、安全である。また、雑誌や小冊子等からステープルを除去する際は、一度に引き抜くのではなく、数ページずつめくりながらステープルの足をこまめに切断し、その都度本紙を外す作業を繰り返すと、本紙にかかる負担が軽減できる。

 

 

クリップの除去

 

紙力が十分な場合は、長い輪の方を親指で抑えつつ、短い輪の方を持ち上げて除去する。紙力が低下している場合は、クリップの両面にポリエステルフィルム等を差し込んで保護した上で行う。しかし、本紙と錆が一体化してしまっていたり、紙が脆く、フィルムを差し込めないほど劣化している際は、ニッパーでクリップの上部を切断した方が安全な場合もある。

 

 

ピンや鉄釘の除去

 

紙力が十分な場合はそのまま引き抜くことができるが、紙力が低下している場合は、本紙とピンの間にフィルムを挟んで、そっと引き抜く。また、太い鉄釘等は、しっかりと握れるペンチやニッパーを使用して、釘全体を左右にわずかに回転させながら慎重に引き抜く。その際、釘の頭が深く埋まっていて、引き抜く際に道具の先端で傷つける恐れがある場合は、厚い紙等で本紙を保護する。

 

 

対象資料に合わせて適切な道具や除去方法を判断するには、経験と慎重な姿勢が求められる。

 

2016年3月16日(水) 明治新聞雑誌文庫様所蔵の屏風の下張りから新聞を取り出す。

東京大学大学院法学政治学研究科附属近代日本法政史料センター 明治新聞雑誌文庫様よりお預かりした屏風の下張り。今回、下張りの一部に明治期の貴重な新聞資料が使われていることがわかり、解体して新聞を取り出し修理を行うことになった。資料は下骨から2層目(胴張り)にあり、酸性紙化によって紙力が極限まで低下していて非常に脆い。まずは1枚の新聞紙になるまで、張りついた和紙を少しづつ丁寧に剥がす作業を行っている。

 

屏風やふすまの下張りは5〜6層の紙の重なりで構成されており、不要になった書類や手紙、新聞紙など再利用されることがよくある。今回も新聞以外の層からは、地方の尋常小学校の試験問題や答案用紙、成績表などが多数見つかった。

 

 

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新聞資料に対する洗浄・脱酸性化処置

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2016年2月10日(水) 手書きノートの非水性脱酸性化処置。

一枚ものの手書きノートに対する脱酸性化処置。基材の紙とイメージ材料へのスポットテストを行ったところ、手書きインクが水溶性であることが確認できた。水溶性のインク等が使用されている資料に対して、水性の脱酸性化処置を行うことはできない。そのため、Bookkeeper法による非水性の脱酸性化処置を行った。Bookkeeper法とはプリザベーション・テクノロジーズ社が開発した、不活性液体に酸化マグネシウム微粒子を浮遊分散させた液体である。処置前の平均pHは4.4であったが、処置後の平均pHは8.1に上がった。

2016年1月27日(水) 革装本の表紙の虫損を和紙の繊維で直す。

虫損は和装本ではお馴染みだが、革装本でも稀に見ることがある。今回の革装本(シリーズ本6点)は構造的な傷みはないが、表紙や背表紙に大小の虫損がある。本全体としては傷みのない綺麗な資料であるがゆえに虫損がとても目立つ。できるだけ目立たないようにして欲しいとのお客様のご要望で、和紙繊維による虫損部の補填処置を行った。

表装の革の色に似寄りの染色和紙を、ピンセットで細かく繊維状にちぎり、虫損の穴にでんぷん糊を塗りながら和紙を埋めていく作業を繰り返し、欠損部の表面が平滑になるまで行う。乾燥後、革の色調や模様に合わせて補彩し、本全体に保革油を塗布し仕上げる。

2016年1月13日(水) 処置前のイメージ材料の同定と耐性確認のために赤外線顕微鏡カメラを活用しています。

近現代の紙媒体の記録資料には様々な紙とともに、様々なイメージ材料(インクや染・顔料など)が使われている。こうした資料に洗浄や脱酸性化や抗酸化などの処置を行う場合には、可能な限りイメージ材料の同定と処置に対する耐性を確認する必要がある。画像はジアゾタイプのサンプル資料を使っての赤外線顕微鏡カメラによるチェック。印字箇所の近くに鉛筆で目印の線を引いて、赤外線照射下で観察すると、鉛筆(黒鉛)の線ははっきりと観察できるが、紫色のイメージ材料の部分は見えなくなる。これは、ジアゾだけでなく、こんにゃく版の資料にも見られる特徴である。ほとんどの場合は目視や基材の紙の感触で判断できるが、タイプ打ちのこんにゃく版や、手書きインクにメチルバイオレットが含まれる場合など判別しにくいものを確認するときは、赤外線顕微鏡カメラを活用している。

2015年12月2日(水) 修理製本の隠れた部位に使う「白鞣し革」とは?

洋装本の表紙の修理に用いる革は、通常は植物タンニン鞣ししたものが使用される。だが、重い革装本の背ごしらえや、綴じの支持体として白鞣し革(white tawed leather)を使用することがある。この革は、植物タンニンではなく、カリウムミョウバン液に浸して原皮(山羊、羊、豚など)を変性することで、独特の色と風合いとともに、優れた耐久性と耐用性を持つようになる。表紙全体を覆う材料としても中世から18世紀にかけて多用されているが、コンサベーションでは、表紙の開閉時の負荷がかかる背や綴じの隠れた部位に用いることが多い。

 

なお、弊社が修理に用いる革は、製本用皮革の専門業者として200年以上の歴史を持つ英国J. Hewit & Sons 社から入手している。コンサベーション用の皮革素材としても長期的な安定性が確認されている。

2015年11月18日(水) クリーニング・ポケット—水で紙資料を安全に洗う。

紙資料は洗浄・脱酸といった保存処置の過程で、一枚ものの資料を水溶液に浸すことがある。汚れや水溶性の酸性物を紙から除去する必須の工程である。そのため、水中では物理的に傷みやすい紙資料を安全に取り扱える方法が必要となる。海外では資料を水溶液に浸す際、どのように取り扱っているのか。詳しく解説されているいくつかの例をあげて、当社の方法と比較してみる。

 

○British Libraryの2013年8月の記事 没食子インクで書かれた紙資料の洗浄

 

○Smithsonian National Postal Museum の紙資料洗浄の動画

 

○インドのコンサバター Namita Jaspalさんによる紙資料洗浄の動画

 

いずれも、水でぬれた資料に破れや歪みが生じる危険を防ぐため、ポリエステルフィルムや不織布、透明アクリル板等でサポートにしている。

 

当社では洗浄の際、独自に開発し特許を取得しているクリーニング・ポケットを使用している 。

 

ポリエステルフィルムと水を通しやすい比較的目の粗い不織布に資料を挟み、四辺を超音波溶着し封印する。水溶液の通り道として四辺を小さくカットする。

 

上記の海外の洗浄方法と同じく、ポリエステルフィルムが全体のサポートになっているため、水中で資料を動かしたり、持ち上げたりしても安全である。また、四辺を溶着することによって水の中で資料が泳いでむき出しになる心配がなく、安心して取り扱うことができる。さらに、資料は不織布で挟まれているので、ポケットに入れたまま乾燥させても、資料が互いに張り付く心配がない。

 

紙が乾いて強度を取り戻すまで、一貫してポケットに入れたまま、安全に取り扱うことができる。

2015年10月28日(水) 13年前に脱酸性化処置した資料はいま、どうなっているか?

コンサベーション・シミュレーション・サンプル。さまざまな紙媒体資料へのさまざまな修理方法を模擬的に適用したもの。サンプルが経年によりどのように変化するかを定期的に観察し、実際の処置の参考にする。ここでは13年前に、1枚の紙を分割し、それぞれの紙片に対して5種の脱酸性化処置を適用したものの、基材の紙と、インク等のイメージ材料の変化を検証した。

 

4枚目の画像について。オリジナル(未処置)の新聞紙片に対し、pHチェックペンの指示薬が素早く黄色に呈色したことから酸性度が高い事が分かる。対して、洗浄・脱酸性化処置(水酸化カルシウム水溶液による)を適用したものは、紫色のまま保たれている。pH値は13年前の処置時と同等のアルカリ域にあり、脱酸性化処置の効果が持続していることが確認できる。

2015年08月26日(水) 壊れやすいスリップケースと本を一緒に収める保存容器

スリップケースの修理と保管方法のご提案。本に付属するスリップケースは利用や経年劣化により、元と同じように本を差し込むかたちでの利用が困難となっている場合がある。だが、貴重な付属資料として本と共に保管したいとのご要望を客様から頂くことが多い。弊社では、スリップケースの形を維持できるよう修補・補強した後はケースとしての利用は控えていただき、本とケースが散逸しないよう一つの保存容器に収めて、保管する方法をご提案している。ケースの中には変形防止のため、本のサイズで作ったスペーサーを入れている。

2015年07月15日(水) 国立音楽大学様のリング式卒業アルバムの保存手当て

国立音楽大学校史資料室様よりお預かりした卒業アルバム 「國立音樂大學 昭和33年3月第3回卒業」への手当て。プラスチック製のリング式アルバムで、写真が貼られている台紙は酸性度が高く、綴じ穴付近には亀裂が起きている。台紙は、めくりによる破損を防ぐためリングから取り外した。写真に対しては劣化予防処置として、一時的に剥がして台紙を脱酸性化処置した後、貼り戻し、画像表面の保護のため間紙を挟み込んだ。台紙はまとめて中性紙で包み、リングにつけたままのおもて・うら表紙の間に挟んで、保存容器に収納。外見上はリング式アルバムの形態を残しつつ、安全に資料を保管・取り扱いできるようになった。

2015年06月03日(水) インク焼け処置前のチェックのための指示薬紙を作る

バソフェナントロリンという薬剤とエタノールの混合溶液にろ紙を浸漬し乾燥させ、二価鉄指示薬紙を作製する。この指示薬紙は、没食子インクかどうかを素早く簡単にチェックするために、オランダ国立文化財研究所で開発されたもので、わずかな水分でインクのチェックが出来るため、没食子インクかどうかの有効な判別法として世界的に広く利用されている。チェックする時は、指示薬紙を水でわずかに湿らせ、調べたいインクに接触させる。もし使われているインクが二価鉄を含む没食子インクであれば、水に可溶性の二価鉄イオンが指示薬紙に移行し、淡いピンク色の呈色反応を示す。

2015年04月30日(木) 鉄線で綴じられた(wire sewing)本の修理

ワイヤー・ソーイング(wire sewing) で綴じられた資料の修理。この度処置した資料は昭和女子大学様の所蔵するトルストイ著「戦争と平和」。本体を綴じている金属が腐食し、綴じはバラバラに外れている。金属を除去し、傷んだ本紙の背を和紙で補修した後、麻糸で全体を綴じ直す処理を行う。綴じの支持体にはテープ状に切った不活性不織布を使用した。それぞれのテープの幅をオリジナルの綴じ穴の間隔に合わせてカットできるので、元の綴じ穴を活かせるし、十分な強度があるが綿や麻のテープよりも薄いため、背表紙やヒンジ部(表紙との接合部)に段差が出来にくく、すっきりと仕上げることができる。

2015年03月04日(水) 個人様の漢和字典の修理。尋常小学校時代から今までずっと大切に使ってこられた。

個人のお客様からお預かりした漢和字典。所蔵者様が尋常小学校に通っていた時から戦後を経て今に至るまで、大切に使ってこられたとのこと。本紙の破れは和紙で補修し、綴じ糸が切れている箇所は糸で綴じ直した。綴じの支持体には薄いが丈夫な不活性不織布を採用した。外れた表紙も染色した和紙で補修して本体と再接合し、再び字典としてお使い頂けるようになった。弊社は個人のお客様からのご要望も承っております。どうぞお気軽にご相談ください。サービス提供の流れはこちらから。

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