今日の工房 2025年

週替わりの工房風景をご覧ください。毎日こんな仕事をしています。

2025年2月21日(金)小田原文学館様所蔵 初版本等の貴重書に貼付された図書ラベルの除去と保存修復処置

小田原文学館様の所蔵する初版本等の貴重書に貼付された図書ラベルの除去を行いました。
小田原文学館は北村透谷や尾崎一雄をはじめとする小田原出身の文学者のほか、北原白秋、坂口安吾ら小田原にゆかりのある文学者の自筆原稿、遺品などを展示し、その生涯や事績を紹介しています。これらの資料は小田原市立図書館が開館以来、長年にわたり収集し、小田原文学館へと引き継がれたものです。

 

今回、尾崎一雄関連の貴重資料特別公開にあたり、初版本等の貴重書への処置をご依頼いただきました。これらの書籍は、かつて図書館の蔵書として管理されていたため、背表紙には図書ラベルや禁帯出シール、裏表紙や見返しには図書管理用バーコードラベルが貼付されていました。背表紙のラベルは著者名を覆い隠しており、判読できるようラベルの除去を行いました。

 

これらのラベルは経年劣化による粘着剤の浸透や、剥がれ防止のために施された接着剤コーティングにより強固に貼り付いていました。また、書籍の背表紙や表紙には損傷が見られ、紙の表面も脆くなっており、破損や印刷面の剥がれを防ぎながら慎重に作業する必要がありました。

処置には有機溶剤(アセトン、トルエン、イソプロパノール等)の混合液を使用しました。綿棒や筆で塗布しながら、接着剤のコーティングや粘着剤を徐々に溶解させ、書籍の状態や印刷面に注意しながらラベルを剥離しました。さらに、剥離後に残った粘着剤も有機溶剤で丁寧に除去しました。また、ラベル除去後の書籍が安全に取り扱えるよう、損傷部分には染色和紙を用いた補修を施しました。

 

今回処置した書籍の一部は、小田原文学館『貴重資料特別公開 尾崎一雄家の「母の日の会 目次」ほか』(3月18日~5月11日)にて展示されます。

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2025年2月14日(金)写真プリントの整理・保存に – 専用フォルダーと縦型収納箱

写真プリントを1枚ずつ挟んで保護する二つ折りフォルダーと、それらを立てて収納できる組み立て式の保存箱をご紹介します。

 

 

二つ折りフォルダー ―写真を1枚ずつ安全に収納し、管理しやすくする
フォルダーには酸やアルカリを含まないノンバッファー紙を使用しており、アルカリに敏感な写真の画像面にも影響を与えない安全な素材で作られています。また、背面側が20mm長くなっており、資料名や請求番号などの管理情報を書き込めるため、索引としても便利です。

 

組み立て式保存箱―フォルダーを立てて収納でき、写真を効率よく整理する
保存箱には仕切りが付いており、フォルダーに挟んだ写真プリントを1区画につき約50枚収納できます。仕切りのレイアウトはカスタマイズが可能で、保管スペースに合わせた外寸での設計や、オーダーメイドのご注文にも対応しています。

 

 

☑ 写真プリントの保存について
写真プリントは温度や湿度の変化に敏感で、高温多湿の環境ではカビや変色、波打ちなどの劣化が進みやすくなります。また、大気中の酸や汚染物質の影響により、画像が退色することもあります。そのため、写真と直接接触するフォルダーにはノンバッファー紙を採用し、写真表面への影響を最小限に抑えています。

 

写真プリントを長期間保存するには、温度や湿度の急激な変化を避けることが重要です。保存箱は適度な通気性を保ちつつ、外部環境の影響を受けにくい構造になっており、ホコリや光を遮断して写真を保護します。また、箱の材質にはアーカイバル品質のボードを使用することで、より安全な保管環境を確保できます。

 

☑ ISOの推奨に基づいたフォルダーや保存箱の選び方
国際標準化機構(ISO)では、写真の保存に適した素材や保存箱に、無酸性・リグニンフリーの素材で作られた密閉型の保存箱を推奨しています。特に、個別収納・縦置き対応の設計が望ましいとされています。

 

 

[主な規格]

 

– ISO 18902:2013 Imaging materials — Processed imaging materials — Albums, framing and storage materials (保存用紙・板紙の要求事項)

 

– ISO 18916:2007 Imaging materials — Processed imaging materials — Photographic activity test for enclosure (封入材料の写真活性度試験)

 

– ISO 18920:2011 Imaging materials — Reflection prints — Storage practices (反射型プリントの保存環境・収納材料の基準)

 

日本では、JIS K 7642がこれらのISO規格を基に写真保存の方法を定めており、2007年版と2012年版があります。2012年版では、ISO 18920:2011に対応し、保存環境や収納材料の仕様が更新されています。

 

 

[ISOにおける保存箱の推奨要件]

 

① 材質(紙・ボード)

保存箱の素材は、以下の条件を満たすことが求められます。

 

– 無酸性(pH 7以上)またはノンバッファー紙(pH 6~7)を使用

– リグニンを含まないアーカイバル品質のボードを推奨

– 金属や塩素を含むPVC・可塑剤入りの素材は避ける

– アルバム・ケース: 無酸性(中性・アルカリ性)の素材を使用

 

② 構造・形態

保存箱の形状として以下のようなタイプが推奨されています。

 

– フラットボックス(平置き箱):横置き保存を前提とした箱で、写真プリントを重ねて収納するタイプ。一定の圧力を分散させる構造が求められる。

– エンクロージャー型ボックス(仕切り付き箱):写真を個別のフォルダーや封筒に収納し、それを立てて保管できる仕切り付きの箱。ISOでは、この形式が写真の物理的なダメージを防ぎやすいとされる。

– ドロワーボックス(引き出し式):頻繁に取り出す資料向け、光やホコリを遮断し、アクセスしやすい設計が求められる。

 

③ 保存方法と収納時の配慮

写真の保存環境を適切に保つため、以下の点に注意が必要です。

 

– 光を遮断し、退色を防ぐ

– ホコリ・汚染物質を遮断しつつ、適度な密閉性を確保する

– 適度な通気性を持たせ、湿気がこもらないようにする

– 封筒・フォルダーは通気性のある紙製を推奨(PVC製は避ける)

– 写真同士が直接触れないよう、中性紙を挟む

– 圧力をかけずに保管する

 

 

ISOやJISの写真保存規格では、適切な温度・湿度管理のもと、無酸性素材の収納と丁寧な取り扱いを徹底することで、写真プリントを長期間美しく保存できるとされています。

 

 

【関連商品】

アーカイバル・バインダー

ガラス乾板保存箱 縦置き型(組立式)、フォルダー

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2025年1月22日(水)中性紙封筒と二つ折りフォルダーの活用法-恵泉女学園史料室様の資料保存実践例-

中性紙封筒は、資料を安全に保管するために欠かせないアイテムのひとつです。特に、紙質が弱く破損しやすい一枚物の資料や薄い冊子などを保護するのに適しています。

 

一方で、中性紙封筒には開口部の開きに制限があり、資料を出し入れする際に封筒の内側で引っかかり、資料を傷めてしまうことがあります。この課題を解決するためにL字開口や長辺開口の封筒がありますが、これらは通常の中性紙封筒に比べて価格が高く、すべての資料に適しているわけではないことから、短辺開口の封筒を利用しているケースが多いようです。

 

そこで弊社では、通常の中性紙封筒と組み合わせて使える「二つ折りフォルダー」の使用をおすすめしています。以下にお客様の活用事例をご紹介します。

 

恵泉女学園史料室様では、創立者・河井 道(かわい みち)に関する資料をはじめ、学園に関係する資料を調査、収集、整理、保管し、学内外の教育・研究に活用しています。所蔵資料は革製の鞄や衣服、机などのモノ資料から、簿冊、ノート、日記、学内新聞、一枚物などの紙資料まで多岐にわたり、紙資料の多くは中性紙封筒に収納されています。近年、経年劣化や酸性化、利用による破損が顕著なため、状態が悪化したものや損傷リスクの高いものを優先して修復処置を進めています。

 

今回ご紹介する資料は、B4サイズの両面印刷文書11枚で構成されています。綴じられておらず、まとめて中性紙封筒に収納されていましたが、酸性化により周縁部の破損や折り目での破断が見られ、取り扱いが困難な状態でした。そのため、薄い和紙を使用して両面から裏打ちを行い、補強する修復処置を施しました。修復後は、資料を「二つ折りフォルダー」(AFプロテクトH 104.7g/㎡)に挟み、その状態で元の中性紙封筒に収納しました。この方法により、既存の封筒を活用しつつ、資料の出し入れ時の破損リスクを低減することができました。お客様からも「取り扱いが非常に安全になった」と好評をいただいています。

 

「二つ折りフォルダー」は、収納する資料に応じてお選びいただける4種類の厚みや仕様をご用意しております。また、定型サイズに加え、さまざまな資料サイズに対応可能なカスタムサイズの製作も承っております。幅広い用途に対応できるフォルダーとして、ぜひご利用ください。

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2025年1月6日(月)謹んで新年のご挨拶を申し上げます。

旧年中は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
おかげさまで弊社は昨年、創業25周年の節目を迎えることができました。これを新たな出発点として、社員一同、より一層の技術とサービスの向上に邁進して参る所存でございます。今後とも変わらぬご支援とご指導を賜りますよう、お願い申し上げます。

 

年賀状と手拭いには、🐍巳年と弊社25周年を記念し、イラストレーターのYuzuko様に特別デザインをお願いしました。新しい年のはじまりを明るく彩る一品として、お楽しみいただけたら幸いです。

 

本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

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