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今日の工房 2023年 8月
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2023年8月17日(木)大田区立勝海舟記念館所蔵「伯爵勝家所有地実測平面図」の修復を行いました。
大田区立勝海舟記念館は、大田区洗足池のすぐ近くにある国登録有形文化財「旧清明文庫」を活用し、2019年にオープンしました。この度、勝海舟生誕200年を記念した特別展開催にあたり、勝海舟が過ごした赤坂氷川邸の図面「伯爵勝家所有地実測平面図」の修復を弊社にて行いました。これは2021年に実施された、大田区のクラウドファンディングで集まった支援を元に実現されたプロジェクトのうちの一つです。図面の解説についてはこちら、『【勝海舟生誕200年記念】クラウドファンディング「家族展を実現させたい!」プロジェクト』のページをご参照ください。
今回対象となった資料はシアノタイプの複写図面です。一般的には青焼き、青写真などと呼ばれ、感光性物質の化学反応によって図像を形成しています。シアノタイプの青色の発色は鉄化合物によるもので、表面にはプルシアンブルーが生成されています。感光処理の過程において紙は酸性になるため、温湿度環境の良くないところに置かれていた場合、酸性劣化による物理的強度の低下や、鉄イオン周辺に褐色の染み、フォクシング等が生じることがあります。
シアノ図面は光に弱い傾向があり、展示には特に注意が必要とされます。光に晒されると非常に早く褪色が進行するため、近現代紙資料の中でも、電子化をはじめとする代替化が急がれる資料形態の一つでもあります。また、プルシアンブルーはアルカリ環境に弱く、青焼き図面の場合、アルカリと反応して黄変~茶褐色になり白抜けが生じます。そのため、酸性紙ではあるものの、中和化やアルカリによる脱酸性化処置といった、紙の保存性を向上させるための修復処置を行うことができず、また、弱アルカリ性の長期保存用の保護紙などを図面に接触させて使用することもできません。さらに、図面が大型であるほど取り扱いによる破損も生じやすく、保管のために小さく折り畳まれたりきつく巻かれることも多いので、展開する際に破れが広がり、それを留めるためにテープを貼ることで変色や汚損の原因となってしまいます。
「伯爵勝家所有地実測平面図」は、2紙が貼り繋がれた大型のシアノ図面で、右半分と左半分で青色の発色が微妙に異なるのが特徴です。巻いて紐で縛られていたため強い巻き癖がついており、紙端は潰れて破れや折れが生じていました。さらに巻きを開いてみると、中央で上下に裂け、紙片の分離、周縁の欠損が多数見受けられました。部分的にクラフト紙やセロハンテープによる補修痕もあり、経年により茶変色化したテープ痕が見られました。
修復処置では、過去の補修紙やテープを除去し、ドライ・クリーニングを行った後、全体の巻き癖と細かな折れや皺を伸展しました。破損箇所の修補作業時には、勝海舟記念館学芸員の皆様にご来社いただき、大きな欠損箇所に対して使用する補填紙について打ち合わせを行いました。シアノ図面は今後も徐々に変色が進むため、補填紙は現時点の青色に合わせるのではなく、白抜きの部分、褪色が進んでいる周縁、ほかにも経年で褪色した青焼き図面のサンプル等とも比較し、馴染みの良い染色和紙を検討し適用しました。
最後に図面を中性紙製紙管に巻きつけ、外側をポリエステルフィルムで保護した後、アーカイバル容器「巻子用台差し箱」へ収納しました。処置の解説についてはこちら、『勝海舟生誕 200 年記念特別展「家族展」に係る修復と映像制作のご報告』のページもご参照ください。
なお、今後の研究利用と原資料保存、展示活用の観点から、こちらの図面は修復後にレプリカが制作されました。このレプリカは8月11日より開催の特別展第三弾「家族と歩んだ明治 海舟書屋へのいざない」にて展示中です、是非ご覧ください。
大田区立勝海舟記念館
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URL:https://www.city.ota.tokyo.jp/shisetsu/hakubutsukan/katsu_kinenkan/index.html
住所:〒145-0063 東京都大田区南千束二丁目3番1号
お問合せ:03-6425-7608
交通: 東急池上線「洗足池」駅下車徒歩6分
開館時間:午前10時から午後6時まで(入館は午後5時30分まで)
休館日:毎週月曜日(祝日の場合は翌日)、年末年始、臨時休館日
入場料:一般300円、小中学生100円、高齢者(65歳以上)240円