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今日の工房 2021年 10月
週替わりの工房風景をご覧ください。毎日こんな仕事をしています。
2021年10月29日(金)慶應義塾大学三田メディアセンター様所蔵「A.N.L. Munby旧蔵 書字の歴史に関する資料箱」を収納する保存容器を作成しました。
歴史的な資料を数多く所蔵している慶應義塾大学三田メディアセンター(慶應義塾図書館)では、その特性を生かし、多岐にわたるテーマでの展示が随時企画されています。今年4月には、(西洋)文字景―慶應義塾図書館所蔵西洋貴重書にみる書体と活字とのタイトルで、様々な時代の貴重な手書き写本や活版印刷本、特殊コレクションが展示されました。現在この展示会は終了していますが、KeMCo(慶應義塾ミュージアム・コモンズ)360 VIEWで「(西洋)文字景」のデジタル展示がご覧いただけます。
今回、三田メディアセンター様よりご依頼いただき、本展示会で展示された「A.N.L. Munby旧蔵 書字の歴史に関する資料箱」の保存容器を作成しました。
「A.N.L. Munby旧蔵 書字の歴史に関する資料箱」について Keio Object Hub
資料箱の蓋を開けると木製の引き出しが3つ積み重ねられており、各引き出しには様々な形態、素材でできた資料が仕切り板で区切られた部屋に納められていました。なかには額入りの手書き写本やガラス板で挟まれたパピルス文書も収納されていました。これらの引き出しや仕切り板は、経年劣化で所々に傷みがみられ緩衝材なども劣化が進み変質していました。そのため、資料を個別に収納するための仕切り付き保存箱と、資料箱本体を収納する箱を作成しました。額、ガラス板は蓋付きのシンクに収納しました。緩衝材には新薄葉紙Qlumin™くるみんと文化財保護用フォーム材のプラスタゾートを使用しています。
本事例の掲載にあたり、慶應義塾大学三田メディアセンタースペシャルコレクション担当の倉持隆様、竹内美樹様に多大なるご協力をいただきました。誠にありがとうございました。
▼慶應義塾大学三田メディアセンターのスペシャルコレクション担当では、職員と利用者に対して、閲覧前に手を洗い清潔な手で資料を扱うよう促しています。また、「貴重書を閲覧するにあたって」(PDF) では、取扱いに際し「資料は素手で取り扱い、手袋等は使用しないでください。また資料は閲覧机の上に置いたままご覧ください。」と明記しています。貴重で繊細な資料ほど、手から伝わる触感が材料の脆弱性を理解するために必要だからです。資料の適切な取扱いについて利用案内等に明記することは資料の破損・汚損の予防につながります。
【参考文献】
『スタッフのチカラ』
・2008年09月19日「貴重書は白手袋を着けて」という誤解 蜂谷伊代訳
・2011年04月05日 洋装貴重書の取扱い ブリティッシュ・コロンビア大学図書館貴重書・特別資料室の指針 高田かおる訳
2021年10月11日(月)早稲田大学會津八一記念博物館様より、革装丁本の修理を承りました。
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処置前(レッドロット現象、背表紙外れ)
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処置前(背表紙地側)
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処置前(綴じから外れた糊付け図版)
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①ドライ・クリーニング
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②リタンニング処置
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③綴じ直し
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④背ごしらえ直し
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⑥接合(タケッティング法)
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⑦背表紙貼り戻し
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⑧背表紙補填
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⑨背表紙フェイシング(表打ち)
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⑩保革油塗布
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処置後
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処置後
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処置後
會津八一記念博物館は早稲田大学文学部教授を務めた美術史家の會津八一(あいづやいち)を記念して、1998年(平成10年)に早稲田大学2号館(旧・図書館)内に設置されました。収蔵品は會津八一コレクションを中心に、早稲田ゆかりの美術品や研究資料、東洋美術、考古・民族資料、日本近現代絵画、近世絵画、考古資料など多岐にわたり、現在約2万点収蔵し、毎年4、5回開催する企画展示やコレクション展示を通して学内外に広く公開しています。
早稲田大学會津八一記念博物館ホームページhttps://www.waseda.jp/culture/aizu-museum/
お預かりした革装丁本は14点。国内では収蔵されている件数が極めて少ない貴重資料であるため、データベース化に伴い、修理を検討されたそうです。資料本体には革のレッドロット化、表裏表紙・背表紙の外れ、綴じ糸の外れといった劣化損傷が見られました。また、本紙には厚手のコート紙に刷られた図版が多数含まれており、今後の閲覧による原資料の損傷を避けるため、修理とともにデジタル化を行うことになりました。
デジタル化の前処置として、構造的な劣化が見られる箇所や損傷部に対し、本体背の仮固めや革の安定化処置などの補強を施し安全に撮影できるようにしました。デジタル化後は、元の装丁・表装材を利用した修理製本を行いました。
デジタル化撮影前に行った資料への処置と修理製本までの一連の流れ
①ドライ・クリーニング:クリーナーやクロスを用いて表面のチリや埃を除去した
②レッドロット化した革への処置:リタンニングを行い安定化させた
③綴じ直し:旧背ごしらえを除去したのち、綴じが外れた箇所を麻糸で綴じ直した
④背ごしらえ直し:背に和紙や中性紙を貼り重ねて補強した。撮影前に背を仮固めすることで本体が安定し撮影時の本への負担が減る。この背ごしらえは元の背表紙を貼りもどすための土台にもなる。
〜デジタル化のため資料をご返却〜
⑤デジタル撮影:学内設備でのデジタル撮影
〜撮影後、資料を再度お預かり〜
⑥表紙と本体の接合:タケッティング法で表紙と本体を繋ぎ、背ごしらえのハネを表紙の見返しに貼り込みヒンジ部の補強とした
⑦背表紙貼り戻し:元の背表紙を背に貼り戻した
⑧背表紙補填:背表紙欠損部分を和紙や中性紙で補填した
⑨背表紙の補強:元の背表紙表面を補強するため染色した極薄の和紙を貼った
⑩保革油塗布:革装部分へ保革油を塗布し馴染ませた
修理を終えた資料は會津八一記念博物館2階グランドギャラリーで開催中の企画展で展示されています。
▼企画展『山内清男コレクション受贈記念 山内清男の考古学』
https://www.waseda.jp/culture/aizu-museum/news/2021/06/24/3492/
この度の事例紹介にあたり、 早稲田大学會津八一記念博物館様より掲載のご協力をいただきました。誠にありがとうございました。