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今日の工房 2021年 9月
週替わりの工房風景をご覧ください。毎日こんな仕事をしています。
2021年9月27日(月)新規のハードカバー表紙をつけて製本し直す
立教大学図書館様より、虫損が著しい学術図書の修理を承りました。
対象資料は1900年代のインドネシアに関する寄贈図書で、元は仮綴じ本[※]であったものをハードカバー製本したものと見受けられます。一部の資料は仮綴じ本のままの状態でした。
資料の本文紙自体には虫損による大きな損傷は少ないものの、内側にまで塵芥や虫糞、虫の死骸などが見られました。ハードカバー資料の表紙・背表紙は特に虫損が著しく、表紙の芯材が空洞化して脆くなり、本体から外れていました。これらの表紙は強度の低下と虫糞による汚損により、再利用して修理を行うことは困難な状態でした。ソフトカバーの表紙をつけたのみの簡易な製本形態である仮綴じ本は、見開きにより背の亀裂や糸切れが起きる恐れがありました。
対象資料のうち、冊子1点と近年に図書館製本されたとみられる図書館製本1点を除くこれら11点の資料に対して、今後の配架と利用に耐えうるよう、新規のハードカバー表紙を作成して製本し直す処置を行いました。
表紙・背表紙は取り外し、本紙1枚ずつを刷毛で払いドライ・クリーニングして塵芥や虫糞を除去しました。その後、本体の背を背ごしらえし、新たな表紙芯材としてピュアマットを接合しました。見返し紙に中性紙(ピュアガード)を貼り、布クロスで表装し、背表紙にはタイトルを印字して貼付しました。仮綴じ本は、背のラウンディング(丸み出し)、バッキング(耳だし)を行って丸背にこしらえ直し、同様にハードカバ―の表紙をつけて製本し直しました。
本文紙をしっかりと保護し支える表紙をつけ製本したことで、不安なく自立して配架でき、支障なく利用・閲覧できるようになりました。
この度の事例紹介にあたり、 立教大学図書館様より掲載のご協力をいただきました。誠にありがとうございました。
[※]仮綴じ本:本文紙を糸で綴じ、簡易な表紙を貼り付けたもの。購入後に所有者が正式に製本し直すことを想定した形態。
【関連情報】
『スタッフのチカラ』
・2015年11月5日立教大学図書館様所蔵 洋装貴重書に対する保存修復手当て ―3年間をかけて段階的に洋装本500点を―
・2015年11月24日学習院大学図書館様所蔵「華族会館寄贈図書」資料に対する保存修復処置事例
『今日の工房』
・2021年4月23日(金)和装本にみられる虫害
2021年9月3日(金)資料のデジタル化にともなう事前処置について
資料のデジタル化は資料サイズ、状態に応じて撮影方法を選択しますが、中には劣化が進み取り扱いしづらく撮影時に損傷する恐れのあるものや撮影に不向きな形態の資料があります。こうした資料はデジタル化作業を行う前に撮影に耐え得るレベルまでの必要最低限の安定化処置を行なっています。
例えば、巻き癖や折れ癖のついたポスターや図面は無理に広げると破れや裂けなどの破損が生じてしまいます。また、折れやシワによって文字や画像が不鮮明になったり、あるべき情報が写っていないといったことが起こるためフラットニングによって本紙を伸展させます。折り目に沿って大きく切れているものは和紙で修補します。
和装本や簿冊、合冊製本された雑誌や新聞に対して行う事前処置として特に多いのが見開き具合を改善するための解体処置です。綴じが内側に入り込んで文字が隠れてしまっているものや厚みがあり開きが悪く撮影の際にノド元の文字がゆがんでしまうもの、本紙が折れたままの状態や封筒に手紙が入ったままの状態で綴じられた資料は綴じを外して一枚ずつの状態になるよう解体します。
資料の状態に応じた事前処置は画像データの品質を向上させるとともに撮影による資料への物理的な負担を減らすことに繋がります。
【関連記事】
『今日の工房』
・2016年3月30日(水) デジタル化のためなど、お客様の館内へ出向しての作業をお引き受けすることが増えました。
・ 2019年11月1日(金)松竹大谷図書館様が所蔵する映画スクラップ帳のデジタル化に伴う解体・簡易補修を行いました。
・2020年11月27日(金)マイクロ化のための合冊製本された新聞資料の解体
・2020年12月10日(木)釘で製本されている資料の解体