今日の工房 サブメニュー
今日の工房 2020年 3月
週替わりの工房風景をご覧ください。毎日こんな仕事をしています。
2020年3月27日(金)虫損が著しい文書修理の第一歩は「剥がす」
折状などの古文書や、糸綴じされている和装本のように、主に和紙を基材とした資料に多く見られる損傷が虫損です。紙の表面を舐めるように虫に喰われていたり、紙束の上から下を貫通するように穴が開いていることもあります。その穴の周りに虫糞を残しながら侵食していくのですが、虫糞が固まって隣の丁の虫穴と固着、さらに隣の丁と固着してしまうため、そこだけ紙が貼りついている様に見えます。虫穴が一箇所、あるいは数カ所だけであれば、ゆっくりめくることで虫糞が落ちて固着を外すことはできます。しかし虫損が全面に生じると、紙束は板のように固まってしまい剥がすことは非常に困難です。
こうした資料の修理をお客様からご相談いただく際、「剥がすために何か機械を使うのですか?」「コツはありますか?」など話題になりますが、何より人手と根気が必要な作業といえます。文字情報を損ねることなく安全な状態で次の処置へ移るために、時間をかけて丁寧に行なっています。
【関連情報】
今日の工房2016年8月24日(水) 虫損がひどい資料へのリーフキャスティング(漉き填め)による修理
2020年3月19日(木)【文献紹介】『Preventive Conservation: Collection Storage』が上梓
『Preventive Conservation: Collection Storage』
編者= Lisa Elkin and Christopher A. Norris
協力連携=SPNHC(The Society for the Preservation of Natural History Collections; 自然史コレクションの保全に関する国際学会、通称スピナッチ)、 AIC(American Institute for Conservation of Historic & Artistic Works; アメリカ文化財保存修復学会)、Smithsonian Institution(スミソニアン協会)、George Washington University Museum Studies Program(ジョージ・ワシントン大学博物館研究)
文化財全般の維持管理に関連する幅広い課題と保存対策について、世界の専門家を結集し実証的な観点から論じた『Preventive Conservation: Collection Storage』が昨年9月に刊行された。編者はアメリカ自然史博物館のLisa Elkin(Chief Registrar and Director of Conservation)とイェール・ピーボディ自然史博物館のChristopher A. Norris(Senior Collection Manager)。本書は、予防保存の基本的な概念や保存計画の立て方・考え方に始まり、保存アセスメント、保管施設の計画と構築、環境管理、防災・救助計画、コレクションの移動、セキュリティ、保管施設の運営方法、保管状況における安全と健康の問題、害虫管理、多様な文化財の種類と特徴、包材のマテリアルテスト、デジタル記録の保存、環境モニタリング、保存資材と材料、保管ガイドラインとリスク管理—と、デジタルコレクションを含むあらゆるタイプの所蔵品を対象とした、現時点でのコレクションの維持管理に関する総合的なハンドブックになっている。
▼下記サイトに目次と各章の詳細が掲載されている。
SPNHC wiki : Collection Storage
https://spnhc.biowikifarm.net/wiki/Collection_Storage
2020年3月11日(水)寒川文書館での資料保存ワークショップに出講しました
2月1日(土)、神奈川県寒川町の公文書館、寒川文書館にて開催された資料保存ワークショップ「錆びや傷みから記録を守る」で弊社スタッフが講師を担当しました。
寒川文書館は公文書館法に基づき寒川総合図書館の4階に設置されている公文書館であり、行政資料や古文書、郷土資料等を収集、整理、保存する施設です。今回のワークショップは、文書館利用者やボランティアの方などの町民や地域の一般の方々、寒川文書館館長ならびに職員の皆さまを対象として開催されました。
本や小冊子などへの簡易的な手当てについて、下記のプログラムで資料保存実習を行いました。
* 傷んだ冊子の劣化、損傷の原因、本体の構造、綴じ方について
* 修理に使う道具の説明
* 金属除去、修補、綴じ直し
傷んだ冊子を解体し、普段あまり見ることのない本の内側を観察することで、劣化や損傷が起きた要因を確認しました。
資料の修理には特殊な道具を使用することも多いのですが、今回のワークショップでは修理道具の中でも割とポピュラーなマイクロニッパー、綴じ糸、綴じ針、筆、糊、ろ紙、不織布などの道具を使用し、これらの使い方や注意点についてご紹介しました。
破れてしまったページの修理には水で薄めたでんぷん糊を使います。でんぷん糊は中性であること、水溶性なので後で剥がせることから、資料保存の観点で非常に優れた接着剤ですが「水分量」の調整が肝になり、刷毛や筆への糊の含み具合や塗布後の処理などに気を遣います。とくに劣化資料への修補では、糊が薄すぎると和紙が剥がれたり輪染みになったり、濃すぎると紙がこわばる原因にもなるので、こうした点に気をつけながら実践していただきました。
質疑応答では、資料保存に関する実践的な質問が多く寄せられ、基本技術の習得のみならず、資料の取り扱いを注意することで予防できる損傷も多いことを弊社の事例を紹介しながら解説しました。
ご参加いただいた皆さまに心より御礼申し上げます。
◇具体的な資料の修理手順はこちらで紹介しています。また、弊社で行った資料保存ワークショップはHPで掲載しておりますので、ご興味のある方はぜひご覧ください。
《関連情報》
・独立行政法人国立女性教育会館主催『アーカイブ保存修復研修』
・私立大学図書館協会和漢古典籍研究分科会主催『古典籍資料の補修実演講座』
・NPO文化財保存支援機構主催『平成30年度文化財保存修復を目指す人のための実践コース』