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今日の工房 2017年 5月
週替わりの工房風景をご覧ください。毎日こんな仕事をしています。
2017年5月31日(水) 耐水性を付与できるシクロドデカンを線状に資料に含浸して水性処置をする。
耐水性が無く処置中に滲む恐れがあるインクは、昇華性のシクロドデカンを塗布し、養生してから、洗浄や脱酸性化処置、裏打ちやリーフキャスティング等の水性処置を行う場合がある。
シクロドデカンは元々は固体だが、熱を与えると液体になる。この状態でインク等のうえから塗布・含浸し乾かして再び固体にし、部分的に耐水性にした後に洗浄等の水性処置を行う。全ての処置を終えたあとに放置しておくと、固体のシクロドデカンは気化(昇華)して資料から抜ける。
これまでは、手作りのホット・ブラシ、電熱線を中に組み込んだプレートなどを使ってきたが、必要以上に線が太くなったり、層の厚みがまだらになり昇華スピードのコントロールが難しいことなどから、つど改良を行っていた。今回、シクロドデカンの塗布によく利用されるKistka(イースターエッグの装飾に使用するワックスペン)と比較してみたところ、これまでより繊細な線が引けるので、必要な箇所にのみ塗布することができた。昇華スピードの調整については今後も引き続き課題ではあるものの、処置の精度が向上する点は期待できそうである。
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2017年5月24日(水)あらゆるサイズのガラス乾板に対応できるように専用フォルダーを品揃えしました。
弊社ではこのほど、ガラス乾板のあらゆるサイズに対応できるように専用フォルダー(中性紙製4フラップ・フォルダー)の品揃えをしました。素材は国際標準化機構(ISO)の定める写真活性度試験(PAT:Photographic activity test)をクリアしており、長期に安心してご使用いただけます。
ガラス乾板を保存する上で最も大切なことは、膜面(乳剤面)を外的な劣化要因からまもること。たとえば、包材が膜面に対し不均一に接した状態では、空気(酸素)や湿度の影響の差が劣化の差となって、画像濃度の低下に繋がるため、劣化を抑制する包材や間紙は周辺にできる限り隙間がなく、膜面に均一に密着させることがポイントになります。
包材に収納する際の基本的な手順は、ガラス乾板を元の包材から取り出し、埃や汚れを柔らかいブラシで拭き取った後、一枚ずつガラス乾板フォルダーに包んで、損傷の無いものは膜面に圧が掛からないように立てて保存できる専用の箱に収めます。
弊社のガラス乾板専用フォルダーは以下のように、一般的な規格サイズとともに変形サイズも品揃えしています。また、サイズ指定の特注品も作成できます。
内寸サイズmm | 外寸サイズmm | 通称 |
47×62×3 | 48×63×3.5 | |
84×62×3.5 | 85×63×4 | |
82×106×3 | 83×107×3.5 | |
84×109×3 | 85×110×3.5 | 手札 |
84×122×3.5 | 85×123×4 | |
104×130×3 | 105×131×3.5 | 4×5 |
122×122×4 | 123×123×4.5 | |
123×123×4 | 124×124×4.5 | |
130×181×3.5 | 131×182×4 | 5×7 |
162×162×4.5 | 163×163×5 | |
164×215×3.5 | 165×216×4 | |
168×216×3.5 | 169×217×4 | 6×8 |
205×256×4 | 206×257×4.5 | |
255×306×4 | 256×307×4.5 | 8×10 |
310×100×3 | 311×101×3.5 | 天文写真乾板用 |
121×165×3 | 122×166×3.5 | 5×7小 |
なお、適正な包材へ収納後のガラス乾板の保管環境は、ISO規格に基づいた日本工業規格(JIS)によるJIS K 7644:2004 写真―現像処理済み写真乾板―保存方法(ISO 18918:2000 Imaging materials−Processed photographic plates−Storage practices )に準拠した環境が推奨されています。許容されるRHレベルは、20%〜50%、好ましくは40%未満。RHは60%を超えてはならず、大きな変動は避ける。推奨温度は15℃〜25℃(20℃以下が好ましい)。過酸化物、硫化水素、オゾンなどの反応性化学物質は保存環境中から除去する—というもの。
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2017年5月17日(水)東大史料編纂所プロジェクト編『文化財としてのガラス乾板』が刊行
東京大学史料編纂所附属画像史料解析センタープロジェクトおよび科研費等による、久留島典子・高橋則英・山家浩樹編 『文化財としてのガラス乾板』(勉誠出版)が刊行された。先駆的にガラス乾板の調査・分析・保全を続けてきた東京大学史料編纂所の実例(東京大学史料編纂所所蔵ガラス乾板の保存とデジタル技術による復元プロジェクト)のほか、同様の取り組みを進める諸機関の手法をまとめたもの。
本書では、ガラス乾板の保存と活用に必要な事柄を、基礎から応用まで、カラー図表をふんだんに示しながら具体的に紹介されており、初心者から実務者にとっての総合的なガラス乾版保存の入門書となっている。巻末付録には用語集のほか、写真関連規格、写真感光材料の標準寸法、保存用品、参考文献などの写真資料の整理・アーカイビングに必要な情報が充実している。
目次は下記の通り。
はじめに 山家浩樹
総論
第1章 ガラス乾板の歴史と保存の意義 高橋則英
第2章 写真と歴史学―東京大学史料編纂所の活動を中心にして 谷昭佳
第3章 写真史料を保存へ導くために 白岩洋子
第Ⅰ部 ガラス乾板の保全と活用
第4章 ガラス乾板の史料学―整理保存と調査による研究資源化の実際 谷昭佳
第5章 ガラス乾板の取り扱い 竹内涼子・高橋則英
第6章 ガラス乾板用保存箱の製作 谷昭佳・高山さやか・竹内涼子
第7章 ガラス乾板の劣化例証 竹内涼子
コラム1 ガラス乾板の「膜面返し」とコロタイプ印刷 谷昭佳(文責)・高山さやか(作図)
コラム2 ガラス乾板の劣化について―ガラスの組成分解について 山口孝子
コラム3 損傷したガラス乾板の処置と修復 三木麻里
第Ⅱ部 ガラス乾板の情報化
第8章 ガラス乾板のデジタル情報化―デジタル撮影とメタデータの作成 高山さやか
コラム4 ガラス乾板のスキャニングについて―京都国立博物館の取り組みから 岡田愛
コラム5 ガラス乾板に関するデータはどこに向かうのか 山田太造
第Ⅲ部 ガラス乾板蓄積の経緯とその背景
第9章 東京大学史料編纂所における歴史史料の複製とガラス乾板 井上聡
コラム6 日本史研究におけるガラス乾板の意義―保阪潤治コレクションから 木下聡
第10章 博物館と文化財写真―奈良国立博物館におけるガラス乾板整理の経験から 宮崎幹子
コラム7 東京大学経済学部資料室所蔵のガラス乾板―横濱正金銀行資料から 小島浩之
コラム8 文書館におけるガラス乾板の蓄積と公開 新井浩文
附録 用語集
・写真関連規格一覧
・写真感光材料の標準寸法に関する一覧表
・参考文献一覧
・ガラス乾板に関する情報・画像を公開している国内の主な機関
・保存用品取り扱い業者一覧
おわりに 久留島典子
掲載図・写真の所蔵・出典一覧 執筆者一覧
2017年5月10日(水)修復業務アシスタントを募集しています。
現在弊社では、修復業務アシスタントのアルバイトを募集しております。近現代紙資料(図書、雑誌、和装本、洋装本、新聞、地図、図面、写真など)への処置に伴う資材の準備、撮影、などのほか、経験や技能に応じて実作業に関わっていただくこともあります。このほか、保存容器の作製、調査、社外での出向作業などのお手伝いをお任せすることがあります。慎重な手作業のほか、資料の梱包や搬送に伴う作業など、内容は様々です。募集概要は、こちらをご確認ください。ご不明な点は、担当者(伊藤、高田)へお問い合わせください。