今日の工房 

週替わりの工房風景をご覧ください。毎日こんな仕事をしています。

2015年03月23日(月) 内外ニュース&レポート編:世界の図書館・アーカイブズはカビ対策をどのように行っているか? —— 国際的な調査結果まとまる

図書や文書等紙資料のカビによる劣化と対策は図書館、アーカイブズ、博物館等の資料保存機関にとって常に大きな関心事である。このほど、20ヶ国、57名のコンサーバター(保存修復専門家)や保存科学者等を対象に行なったアンケート調査の結果が発表された。回答者の大半が公的な機関の職員。これまで各国あるいは各機関ではそれぞれ独自のガイドラインにより対策が行われてきたが、今回のように統一したアンケート項目により国や機関をまたいで行われた調査は初。Fungal Biodeterioration of Paper: How are Paper and Book Conservators Dealing with it? An International Survey. として専門誌 Restaurator: International Journal for the Preservation of Library and Archival Materialに掲載された(2014, 35-2)。著者らはポルトガルの保存科学者。

 

それによると、カビによる劣化は世界共通で、劣化の予防や拡大を阻止するための何らかの対策を講じており、また薬剤等を用いた滅菌処置を行った経験のある機関が大半を占める。また、予防策としては保管や展示環境の制御が主として行われている。すでにカビの被害を受けた資料には乾燥処置が優先され、拡大を食い止める処置としては70%エタノール液の噴霧等を採用している。しかし現在実施されている方法には充分とはいいがたく、資料にも人にも安全で効果的な方法の研究や開発が喫緊の課題としている。

 

この調査はWeb上のGoogle Drive®に置かれた14の質問項目にインターネットを通して応えてもらう方法で実施された。予防、被害の要因と滅菌等の処置管理、被害を受けた資料への対処法、そして課題と要望に関するものである。アンケート対象者は、定評あるメーリングリスト Conservation Distlistの参加メンバーのうち紙媒体関連として登録している1034名のコンサーバターや保存科学者、図書館員やアーキビスト等である。20ヶ国、57名から解答を得た。68%が公的機関に属し、10-20年の勤続経験者が42%を占める。

 

予防
 
「何らかの予防対策を講じている」のは90%、「燻蒸等の積極的な(active)な処置をしたことがある」が79%、「一度処置をした資料を収蔵庫に戻したあとに再びカビが活性化したことがあるか」は「無い」が79%だが「ある」も20%を占める。また、予防対策としては「温湿度管理」(77%)、「換気システムの導入」(60%)、「エアーフィルタリング」(37%)の順。

 

カビ被害の発生要因
 
「漏水」(35%)、「保管の少環境対策の不備」(30%)、「外気変動に連動した温湿度変化」(26%)、「温湿度管理システムの故障」(25%)、「洪水」(25%)の順。「その他」(25%)で特筆されるのは「汚染された資料のカビが換気システムにより拡散し他の資料にも被害を及ぼした」という解答である。

 

カビ被害制御と不活性化
 
ひとたびカビの被害を被った場合の対処法は表4のように「設備を用いて屋内相対湿度を低下させ乾燥」、「文書や書籍への間紙挿入、吸収、交換」、「凍結乾燥」、70%エタノール溶液での噴霧等。ガンマ線殺菌は1割、エチレンオキサイドによる燻蒸滅菌はほとんど行われていない。

 カビで汚れた資料のクリーニングは、エタノール殺菌と併行してブラシやスポンジによる拭き取りや真空吸引等が採用されているが、汚染された部位だけでなく全体にカビを広げるリスクや、エタノールで溶解する色材への影響などが指摘されている。また。カビの被害を受けた部位は総じて紙力の低下や破損が認められるが、修理法は和紙に、でんぷん糊やメチルセルロースやクルーセルGなどどの組み合わせでの補修処置を70%以上が採用しており、ゼラチンやメチルセルロース、クルーセルGによる全面サイジングも20%ぐらい採用している。なおカビにより着色された部分の漂白等による除去は、展示が必要などの場合を除き、ほとんど行われない。

 

今後の研究開発の課題
 
予め4つの選択肢として「無毒性/安全な防菌・抗菌法」、「カビ汚れの効果的な除去」、「生物としてのカビの排泄物の紙への影響」、「カビで物理的に傷んだ紙の安定化と強化」が用意され、課題としての重要度を1〜5のレベル(5が最高)で答えてもらった。「無毒性〜」が最も高くレベル5で67%、レベル4ではカビによるシミなど汚れの除去(40%)で、「排泄物〜」がレベル3と4の半数、「安定化〜」は各レベルで15〜20%となっている。

 

 

ページの上部へ戻る