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スタッフのチカラ
東京大学経済学部図書館における山一證券資料のアーカイバル容器収納事例
2008年12月18日
山一證券資料の受入から公開までの流れと収納事例
山一證券資料とは
山一證券は1997年に破綻したが、その当時、東京大学大学院経済学研究科の伊藤正直教授は、山一證券100年史の執筆責任者を務めておられた。「山一證券100年史」は同社破綻のため刊行されなかったが、執筆のために社内で収集された資料は創業時から破綻時点にまでの長期にわたるもので、日本の証券市場や証券会社の分析にとって極めて有益なものとして残った。
「資料の廃棄を防ぐためにも東大で引き取る」ことが方針として定まり、まずは清算業務・債権管理の任にあった日本銀行の協力のもと、資産価値が評価された社内文書の破棄を防ぐことから作業が始まった。次に、引き取り側である東京大学において、整理に要するファンドをどうやって調達するか、整理・分析スタッフはいるか、どこに保管するか、といった問題を短期間でクリアしていった。1998年2月、東京大学経済学部図書館は伊藤教授の要請を受け山一證券の野澤正平社長宛に山一社内資料の寄贈依頼を提出し、同年3月に了承。同年6月に270箱の寄贈(第一次寄贈資料)を受け、2004年には457箱の寄贈(第二次寄贈資料)を受けた。弊社が容器の作成を担当したのは、このうちの、第二次寄贈分にあたる。
資料を受け入れてから
東京大学経済学部図書館資料室は、このような企業文書や個人文書の受入や整理の経験が豊富であり、山一による非公開期限設定の要請や、管理上の問題にも十分対応することができた。
寄贈は二次に渡ったが、第一次寄贈資料は百年史編纂のための資料が中心のため、比較的整理された状態であった。その整理作業は2年がかりで伊藤氏と資料室スタッフが進めていった。
これに対し、第二次寄贈資料は第一次分とは性格が異なり、一からの整理が必要となった。このため、資本市場研究という観点からの大型の科学研究費(学術創成研究費)を申請したところ、これが認められ、大学院生や学部学生を大量動員した資料の整理、目録作成が可能になった。
2005年1月27日付けの日本経済新聞朝刊に掲載された「山一證券資料が東大に寄贈された」という記事が株式会社極東書店の営業担当者の目にとまり、マイクロ及びデジタル出版化への道が開かれた。その後、2007年10月にはマイクロフィルム版「山一證券株式会社」第1~4集(DVD付属)が発売された。こうして巨大証券会社の全生涯が明らかになる世界的にも画期的なコレクションが誕生した。これらの資料はその経営実態、証券行政との関わり、企業間競争と経営の国際的展開を知ることができ、また、わが国資本市場の構造と特質を明らかにするための不可欠なデータといえる。
山一證券とは
1997年11月に破綻した山一證券は、100年の歴史を持つ老舗企業であり、第二次大戦までの戦前における日本経済のなかでは、第一位の証券会社であった。戦前日本の株式市場は戦後と異なり、株式取引所取引では基本的に現物取引の比率は低く、清算(先物)取引が中心だった。また、銀行も証券の引受を行い、社債引受はもっぱら都市銀行と政府系の日本興業銀行が行っていた。証券会社は、これらの銀行の下引受を行うか、銀行が引き受けない企業の社債引受を行うのが一般的だった。
戦後、証券市場が再開し、戦前とは異なり証券業務と銀行業務が厳格に分離された。そのような状況下、山一證券、野村證券、日興証券、大和証券は4大証券と呼ばれ日本の証券市場を牽引した。その後、日本の高度成長期(1955~1973年頃)の初め頃、空前の株式ブームがおき、証券会社は経営を拡大するために大量推奨販売や運用預かりといった方式を推進していくことになる。しかし、株式ブームの終了とともに、株価は下落、無理をかさねた経営は危機に陥る。1965年、山一證券は事実上最初の破綻を迎えた(証券恐慌)。
日本政府は山一證券に対し日銀特別融資を実施し救済する。その後日本経済はいざなぎ景気に見舞われ、救済融資の返済は18年という予想を大幅に短縮し、4年で完済された。高度成長が終焉したあとも日本経済は進展を続け、証券会社の海外営業はバブル期に急拡大していく。しかし、バブルが崩壊し株価と地価が長期に下落を続ける中で、短期間で大膨張した証券会社の経営は一挙に暗転し、そして1997年、山一證券は2度目の破綻に追い込まれた。
*本文章は第16 回ICA 大会において東京大学経済学部教授 伊藤正直氏が講演された内容を元に要約したものである。
*写真は東京大学経済学部資料室より提供いただいた。 東京大学経済学部図書館 資料保存・修復に関する情報 経済学部図書館のとりくみ
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